経済日本を滅ぼそうとしているのは経済エリート? 今の日本に必要な「時代精神」について考える
中興精神としての新しい近代精神
時代精神がハッキリしていたころは、国民の多くがその精神に沿って努力していた。もちろん政府に対する反発もあったが、それも含めて、社会全体に時代のエネルギーが充満していた。 セーフティネットがしっかりしていないから、挑戦することができないという意見もあるが、それは社会制度の問題というより、むしろ社会の空気すなわち時代精神の問題ではないか。 とはいえ中興とは、経済指標を上げることだけではない。たしかに日本の国力を示す指標は凋落の一途であるが、数字には表れない生活と文化のクオリティというものはある。伝統の文化と技術の精妙さ、津々浦々の安酒場にあるようなきめ細かいサービス、この島国にはそういった、片隅の居心地の良さがある。そういったものが再び評価されているのだ。アナログの復権というべきか。 ものづくりに関して、日独伊の新三国同盟を結成すべきだと書いたことがある。かつての軍事同盟ではなく「ものづくり文化同盟」だ。この三国には数字にならない、ものづくりの技と力がある。それを支える文化がある。かつてそれは経済指標に強く反映されたが、今はビッグテックと呼ばれるような情報産業の陰に隠れてあまり指標の数字に表れていないのだ。ものづくりの復権は必ず来る。 過剰に複雑化した社会制度は思い切ってデジタル化すべきだが、人間の生活と文化にはアナログが必要だ。 今日本が必要としている中興精神は、モダニズム建築創成期の自由と機能の精神、あるいは資本主義創成期の勤勉と挑戦の精神に近いものではないか。かつての近代精神にあった、自由、合理、科学、勤勉、機能、個人、挑戦といった価値をもう一度見直すことではないか。とはいえそれは、現在さまざまな問題が露呈している近代文明を礼賛することではない。むしろ逆に、脱炭素を基調に、近代文明を方向転換する近代精神である。
「地球か国家か」 人類が抱える矛盾
アメリカの大統領に選ばれたトランプという人は、世界の人類よりアメリカ国民優先ということで、移民を排斥し、輸入品には高関税をかけるという。地球環境の問題にも無関心である。 僕は温暖化ガスによる異常気象の問題は思ったより速度が速く、人類喫緊の課題であると考えている。しかしトランプ氏のような議論が出てくることも理解できる。人間はそうそう公明正大ではありえない。世界が国家単位で運営されている以上、地球や人類より、国家が大事、国民が大事という理屈は、簡単に否定できない。つまり彼は、今の人類が抱える矛盾、地球と国家の矛盾をハッキリさせる人物なのだ。 「地球か国家か」。当面、人類はこの矛盾とともに生きるほかはない。 今の日本は、その地球と国家の矛盾をこそ中興精神とするほかはない。 小手先の政策ではどうにもならない。今話題の「〇〇円の壁」という問題で、税収が減るといって反対している人たちもいるが、ズレているのではないか。事の重要性は、その「壁」が勤勉と挑戦の意欲を削ぐことである。