「ママは安楽死したいの?」――スイスで生涯を終えた母 夫と娘2人の1年 #ザ・ノンフィクション #ydocs
今でも考えてしまう「もし」 1年たったことで明かせる胸中
1年後の一周忌。正装したマコトさん(49)、メイコさん(19)、マコさん(13)は、マユミさんのお墓を訪れた。墓石には、絵が得意だったマユミさんが書いた娘2人のイラストが彫られていた。 マコトさんが墓石に水をかけると、マコさんは「水かけたらママが寒くない?」。マユミさんがお墓に入ってから、初めての秋。 墓前で手を合わせる3人には、それぞれの思いがあった。 マコトさんは今でも、「もし」を想像してしまうという。 「スイスまで付き添って、苦しまずに最期を迎えるのを見られたこと。それは本人の希望でもあったので、そこは良かったかなと思っています。 でも、もし放射線治療のための固定器具が作れていたらどうだったんだろうと、今でも思ってしまいます。もう1週間早く気付けていたらって」 脳への転移が分かる2カ月前の脳検査では、異常なしと診断されていた。わずかの時間差だった。 マコトさんの中には、もう1つの大きな「もし」がある。 「もし日本で安楽死が認められていたら、もう少し一緒にいられたかもしれない」 その思いは、娘たちも同じだという。
「幸せを全部子供にあげて」ママの願いを胸に前へ進む家族
家族は3人で新たな生活を始めた。 マコトさんは、娘たちのためもあってフルリモートで働ける会社に転職。メイコさんとマコさんは、それぞれ希望の大学と中学に進学した。 母がいつも作ってくれていた料理は、長女のメイコさんが週に2回担当。それ以外はマコトさんが作っている。 月命日に開かれたお別れ会には、マユミさんのママ友や同僚、娘たちの友達が集った。 「なんかあったら言ってな」 そんな言葉をママ友から掛けられた娘たちは、屈託のない顔で言葉を返す。 「娘たちには、自分のことを忘れてしまうくらい、人生に夢中になってほしい」 マユミさんのこんな願いを知っているかのような笑顔だ。 マコトさんには、マユミさんからの頼まれ事がある。 「私がこの先もし生きていたら受けられるはずだった幸せを、全部子供にあげてください」 その言葉が、今は何よりもの「生きなきゃいけない理由」だ。 「あと10年くらい、次女が大学を卒業するまでは頑張らないと。幸せが余ったら、ボクにもくれると言っていたので」 マコトさんの部屋には、マユミさんが娘たちに残した何年分もの誕生日カードが大切に積まれている。 これからの成人式や結婚式で贈られるメッセージカードと共に。 (取材・記事/山本将寛)
(※この記事はフジテレビ「ザ・ノンフィクション」とYahoo!ニュース ドキュメンタリーの共同連携企画です。 #Yahooニュースドキュメンタリー #令和アーカイブス)
ザ・ノンフィクション