病院嫌いの養老孟司が<抗がん剤治療>を決断した理由。「治療に関して私は原則を決めている。自分で医者を選び、そのあとは…」
◆がん当事者になって変わったこと 『がんから始まる生き方』の僕以外の著者、中川恵一さんと柏木博さん(武蔵野美術大学名誉教授)は、がん当事者です。 19年に出版された本ですが、このとき柏木さんは、東大病院で多発性骨髄腫の治療を受けていました(柏木さんは21年に亡くなる)。 一方、中川さんは、18年に膀胱がんが見つかり、内視鏡手術を受けています。がん当事者の話というのは、説得力があるものです。 これに対し、僕だけが、がん当事者ではありませんでした。それで、僕があの本で好き勝手にしゃべっていたと思われたのでしょうか。本書の編集者から、「がん当事者になって、変わったことはあるのでしょうか?」と質問されました。 別に考え方は変わっていませんが、がんという病気に対して、以前より、いろいろ考えるようにはなりました。 まあ僕の場合は、身から出たサビです。「あれだけタバコを吸っていたら、肺がんになるのも無理はねえな」という気持ちはあります。
◆喫煙者に多い小細胞がん 肺がんは、小細胞がんと非小細胞がんに大きく分かれると言いましたが、非小細胞肺がんはタバコとは無関係に発症する肺がんです。 これに対し、僕が診断された小細胞肺がんは、喫煙者に多い肺がんです。僕は60年以上もタバコを吸い続けてきたのですから、いつ肺がんになってもおかしくはないのです。 東大病院だけでなく、どこの病院でもそうですが、入院中はタバコを吸えません。病院の外に出て一服もダメです。そこまでして吸いたいとは思いませんが、入院中にタバコを吸っているのがバレたら、治療してもらえないと言われました。 タバコの体への影響は、禁煙して20年たたないと、吸わない人と同じにならないので、僕が今タバコをやめてもほとんど意味はありませんが、入院しているのですから、これも辛抱するしかありません。 ただ、タバコが吸えないと口さびしいので、何か食べたいのです。鳩サブレーのようなクッキー系のお菓子がよいのですが、僕は糖尿病でもあるので、高カロリーのお菓子を食べると家族にうるさく言われます。それで、もっぱら卵ボーロを食べていました。入院中は、ずっと卵ボーロを食べているような気がします。 それから、コーヒーも飲みたい。東大病院の1階にカフェがあるので、その店からテイクアウトできますが、買いに行くのがめんどうくさいのです。それでがまんしていましたが、そのことを中川さんに話したら、中川さんの秘書の方が買ってきてくれるようになりました。それからは毎日コーヒーを飲んでいます。 ※本稿は、『養老先生、がんになる』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
養老孟司,中川恵一
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