新型コロナで露呈した各国の「権力」と「民力」、そして「質の国力」
中国・権力と民力の背反
年初のころ、中国の武漢の実情をテレビで見ていて、一時はどうなることかと思われた。しかし徹底した都市封鎖、検査、隔離などによって完全に抑え込んだようで、中国はこれを社会体制の勝利として宣伝している。 現在の中国政府最大の目標は、共産党独裁の政治体制を維持することである。もっとも恐れているのは民衆がその体制に異議を唱えはじめることであり、香港の実情をその兆しととらえているのだ。そのためには今の体制が、西側民主主義国の体制よりも優れていることを証明しなくてはならない。この数十年間高い経済成長をつづけることができたのも、軍事的拡張が可能だったのも、新型コロナウイルスを抑え込めたのも、共産党の思想と政治が優れていたからであるということを証明し宣伝する必要がある。 しかしこの大国は、権力と民力が背反する傾向にある。同じ方向に向かわせようとしたのがトウ小平の改革開放であったが、今はそこに生じる腐敗を取り締まるために、権力が民力を強引に押さえ込もうとしている。その強すぎる権力は、多くの民衆に圧迫を感じさせ、特にウイグル、チベット、モンゴル、香港など、周縁の民族と社会に対する統制は、世界の民主主義国の許容範囲を超えつつある。今回のパンデミックにも、発生源としての責任論が潜在し、抑え込んで万々歳というわけではない。海外からの批判が民衆に飛び火する可能性もある。長期的に考えれば、強すぎる権力にはもろさが内包されているのだ。 多くの留学生を指導した経験から、中国人の個としての力が弱いとは思えない。その民力は、歴代王朝時代には官僚の力として発揮された。現在は経済の力として発揮されている。今後は科学技術の力として発揮されるであろう。しかしその政治的社会的な民力は、共産党政権樹立以来の強すぎる権力に圧迫され、成長できないままでいるように思える。
台湾とニュージーランド・危機感の勝利
コロナ対策で、ほぼ完璧に勝利を収めているのが、台湾とニュージーランドである。 この二つの国は、権力、民力ともに質が高いのだと思われる。しかしそれ以上に、国家と国民が強い「危機感」をもっていることが大きい。台湾には、中国の軍事的拡張に対する平時からの危機意識がある。ニュージーランドには、海によって他国とは隔絶された桃源郷として、外からやってくる災厄に対する風土的な危機意識がある。 どちらも比較的小さい、海で囲まれた国という共通点があり、ウイルスへの対応に適切な規模と閉鎖性であったのかもしれない。ニュージーランドの人口は約500万と小さく、面積は約26.8万平方キロメートル、台湾の人口は約2360万だが、面積は約3.6万平方キロメートルと小さい。またよくいわれるように、国のリーダーが女性であり、生命を守ることに敏感であったのかもしれない。欧州では、ドイツのメルケル首相の対応に評価が高い。 総じて今回、二つの国は、権力も民力も一致した方向を取ったことが成功要因であったように思える。中国のような強権という印象はなく、危機感による団結の力というべきか。そのことが日本や韓国との違いにつながっているのではないか。