来春RISEで那須川天心の”キック界卒業”「天心ファイナル」
キックを意識させておいた上で、パンチは、死角からボディを打ったり、ワンツーもリードブローを単なるジャブでなく突きさすようなアッパーに変えていた。志朗は、その右のパワーにロープに吹っ飛んだ。ムエタイで「センチャイキック」と呼ばれる右手をついての曲芸ハイキックも披露した。 2ラウンドに志朗はキックを仕掛けて突破口を開こうとするが、天心のプレッシャーは止まらない。 そこには究極の騙しのテクニックが隠されていた。 「蹴りはめちゃ速く打ってパンチはちょっと遅く打ったんです。0.5から1くらいの間を空けてパンチを打った。あえて遅いのを打ったり、そういう騙し合いをしたんです」 後のない志朗は3ラウンドに逆転を狙って勝負をかけるが、そこに天心の左ジャブが立ちはだかった。 「ジャブとバックステップの速さが手に負えなかった。距離を支配された。ボディを打ち返そうとしても射程圏内にいない」とは、試合後の志朗の談。 ここにも天心の罠が張ってあった。 「ストレートは絶対に警戒してくるのでストレートではなくジャブを使った。いつもならワンツーで行くところをワンで止めて、またワンとか。ストレートが来るんじゃないかと思った時に“来ない”とか、早く入ってゆっくりと打ったりとか、ゆっくり入って速く打ったりとか。ギャップを作ったんです」 残り1分で志朗のバックブローのヒジが天心の右目に入るアクシンデント、試合がストップするほどで、おそらく天心の視力は完全に戻っていなかっただろうが、再開後も前に出てくる志朗に反撃を許さず最後はミドルをつかんでもつれあったままゴングを聞いた。 1年5か月ぶりの再戦でリベンジを果たせなかった志朗は「彼の方が上。認めるしかない」と完敗を認めた。 天心は「超・玄人な技術戦。なかなか分かってもらえないんじゃないかなとは思いますが」と、自らの試合を解説し、「駆け引きで勝ったのが一番うれしい。もちろんKOやダウンを取ることも大事ですがそこを目的にしていた試合ではなかった」と語った。 試合前には、テレビの仕事をすべて断って志朗戦に集中していた。 リングには、まるでスーパーサイヤ人のようなヘアスタイルで登場した。AbemaTVのビジュアル撮影時のヘアメイクが気に入り、試合直前に控室でセットしてもらった。 「芸術は爆発です。話題を作る男になりたいのでね」 どこか楽しそうだった。彼は、ただ強さだけを追求するのではなく、格闘技に芸術性もエンターテインメント性も求める究極の探求者なのだ。