特別支援学校教員がなぜ海を渡るのか 理想のインクルーシブ教育を求めて #こどもをまもる
現地で半年間、「教育アシスタント(EA)」の養成コースを受けた後、実際に公立学校で働いた。養成コースでは「EAが子どもにピッタリとくっついたら、子どもたち同士で関わる邪魔をしてしまう。一歩引いて、見守ろう。あなたは、特定の子どもではなく、その子どもがいる集団をサポートしてね」と教えられ、感心した。特別支援学校では子どもが主人公という意識ではいるものの、どうしても「大人対子ども」の関係が多くなってしまいがちで、子ども同士が自然にコミュニケーションを取り合える距離感を保つことは難しかったからだ。実際に現地で訪れた学校では、障害のある子どもたちが通常学級に在籍し、障害の有無に関係なく友達として関わり合う日常を目の当たりにした。 スタッフの人数、クラスの規模、教室のレイアウト、カリキュラムなど、日本とカナダの違いを挙げればキリがなかった。教育のあり方について、根本的な発想の転換が必要な部分も多いと感じた。それでも「制度の変更は欠かせないけれど現場から始められることもある、と感じることができたのが大きな収穫だった」と話す。カナダの教師たちが「インクルーシブ教育の実現にはさまざまな現実的な課題があり、すごく難しい。しかし、取り組むべきことだ」と考えていたことにも励まされたという。 沼田さんは今年の春休み期間中、日本の人々がカナダのインクルーシブ教育について学ぶツアーの講師役を務めるために再び現地を訪れた。「これからも日本とカナダ、二つの教育現場を行き来しながら、お互いをつなぎ合わせるような取り組みをしたい」。そう考えている。
日本の「道しるべ」に
文部科学省の学校基本調査によると、2022年度の特別支援学校の幼児児童生徒数は14万8635人。少子化が進んでいるにもかかわらず、2010年度の12万1815人から10年余りでおよそ1.2倍になった計算だ。こうした状況に対し、国連の障害者権利委員会は2022年9月に「分離教育は分断した社会を生む。インクルーシブ教育はともに生きる社会を作る礎」として、政府に対し「障害児を分離した特別支援教育をやめる」よう強い勧告を出したが、政府はこれを聞き入れる姿勢を示していない。世界の流れに反して分離教育が進んでいるのは間違いないといえるだろう。 ただ、障害のある子どもたちに対する教育は、世界史的な視点から見てみると、多くの国々で、障害者(障害児)の排除(あるいは隔離)→分離教育→統合教育→インクルーシブ教育という経緯をたどってきた。現状、分離教育が一般的な日本はもちろんだが、イタリアやカナダであっても例外ではない。だからこそ、大内さんや沼田さんが伝える両国のインクルーシブ教育の現状を知ることには大きな意味がある。日本社会が目指すべき「道しるべ」になるはずだ。 --- 「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。