特別支援学校教員がなぜ海を渡るのか 理想のインクルーシブ教育を求めて #こどもをまもる
3月まで大内さんの同僚で、かつて神奈川県内の特別支援学校で校長を務めた経験がある石上信彦さん(62)も、この本に感銘を受けた一人だ。 「イタリアがかなり前からこうした取り組みをしていたというのは全然知らなかった。衝撃だった。私自身としては知るのが遅かったし、知っていてもできたかどうかは分からないけれども、世界の中でここまでやっている国があるなら、日本でできないわけはないと思う」
退職後、再任用で一教員として特別支援学校に勤務し、現在も率先して子どもたちと走り回っている石上さん。特別支援学校の教育に否定的ではないが、インクルーシブ教育は進めるべきだと考えている。それには通常の学校での教育のあり方を変えていくことが必要だと話す。 「通常の学校があらかじめ定められた教育内容に子どもたちを合わせようとするのに対し、特別支援学校は子どもに合わせて教育内容を組みます。『一人ひとりに何かを身に付けさせるにはどうしたらいいか』といった専門性に日本の特別支援学校は長けている。しかし『子ども同士の関係をつくろう』と考えたとき、周りに子どもたちがいないのが特別支援学校の弱点です。だから、分離が必ずしも必要なわけではないと思う。一人ひとりの子どもに合わせる特別支援学校の良さを通常の学校に取り入れれば、もっといい教育ができるはずです」
本の出版後、大内さんは多くの勉強会に招かれ、イタリアの現状について詳しく解説した。そんな中、本や論文だけでは見えてこない、イタリアのフルインクルーシブ教育の現状について、さらに深く学ぶことを決意。1年間休職し、今年4月にイタリアに旅立った。
カナダに向かった元特別支援学校教員
そんな大内さんよりひと足先に、海外のインクルーシブ教育の現場に飛び込んだ特別支援学校の教員経験者がいる。大内さんの知人でもあり、現在、横浜市内の小学校で教員として働く沼田菜緒さん(仮名、34)だ。 横浜市立の特別支援学校に6年間勤務した経験を持つ沼田さんは、2020年末からおよそ2年近くにわたって、やはりインクルーシブ教育の先進地として知られるカナダ西部のブリティッシュコロンビア(BC)州に滞在した。特別支援学校に勤務しているときからインクルーシブ教育の理念の素晴らしさは感じていたが、具体的にどのように実践されているのかを自分の目で見たいと思ったのだ。