特別支援学校教員がなぜ海を渡るのか 理想のインクルーシブ教育を求めて #こどもをまもる
インクルーシブ教育先進国、イタリア
イタリアという国にどのようなイメージがあるだろうか。サッカーやファッションなど、どちらかというと「陽気で楽観的な」印象がある人も多いのではないだろうか。しかし、実は1970年代から、国を挙げて「フルインクルーシブ教育」に舵を切ったインクルーシブ教育先進国でもある。障害がある子どもの学校(日本の特別支援学校に当たるもの)の多くは撤廃され、障害の有無や国籍などにかかわらず、誰もが地域の学校、つまり日本でいうところの地域の公立学校で学んでいる。 すべての子どもたちを通常の学校で受け入れるため、イタリアでは長年かけて教育制度を抜本的に見直してきた。1クラス20人という少人数制の学級、支援教師(障害のある子どもだけを見るのではなく、クラス全体に責任を持つ)を含む複数担任制、カリキュラムの柔軟化、教育と医療・福祉分野の専門家との連携など、その取り組みは多岐にわたる。 20代後半から30代の初め頃にかけて、イタリア北東部の「水の都」と呼ばれるベネチアに留学していた大内さんは、特別支援学校の教員になる直前の2012年12月~2013年2月にこの街を再訪した。
街中を運河が流れ、400以上の橋が架かるベネチアは、車の乗り入れが禁止されている。しかし、障害のある子どもたちも、このバリアフリーという言葉とは程遠い街を歩いて地域の学校に通い、街中の人々から「チャオ」という挨拶の言葉をかけてもらう。誰もが互いに「あなたのことを知っているよ」という状況を、そこかしこで見ることができた。 大内さんは、そうした光景を思い出し、羨ましさと妬ましさを感じた。と同時に、一つの使命感が湧いてきた。 「自分がイタリアのフルインクルーシブ教育について学び、その教育のあり方とそれによってどのような社会がつくられているのかを、日本に伝えなければいけない」 高等部の教え子たちを社会に送り出してからおよそ4年半後の2022年秋。大内さんは、2012年にイタリアで出版された『ペダゴジア・スペチャーレ』を底本とする翻訳本を、クラウドファンディングを活用して出版する。この訳書は教員仲間やインクルーシブ教育を研究する研究者、また障害のある子どもを持つ親などの間で話題となった。