名古屋城の木造復元差し止め訴訟 主張が受け入れられた名古屋市が心から喜べないワケとは?
名古屋城を木造で建て替える計画があることは、全国的にもよく知られている。しかしその計画をめぐり、名古屋市が住民から訴えられていたことまで知っている人は少ないはずだ。 名古屋城の木造復元計画はなぜ行き詰まっているのか? その背景については後述するが、約2年にわたる争いの結果、11月5日に名古屋地裁(名古屋城正門の目の前にある)は「建て替え計画の業務委託料約8億5000万円の支払いは不当で、事業は停止するべきだ」とする原告である住民側の訴えを棄却。名古屋市の主張を全面的に認め、名古屋城天守の整備は「木造復元が相当」とのお墨付きまで与えた。 歴史ライターの筆者にとっては不満と不安が残る判決である。そして、名古屋市もこの判決を喜んで受け取って、名古屋城天守の建て替えをサッサと進めていく…とはいかない状況なのだ。 これまでの経緯を含め、混迷する名古屋城の今を解説してみたい。
「8億5000万円の支払いおかしい」と提訴
原告側の市民15人で構成された「名古屋城天守を有形文化財に登録を求める会」は、名古屋市の河村たかし市長を相手取り「名古屋城天守閣整備事業における基本設計代金の支払いに対する返還請求、同実施計画契約の無効、及び同事業の差止」を求めていた。 原告側がこれらを求める根拠として主張した内容は、以下の4点に整理できる。 1、建て替えについて国の文化審議会に諮問されておらず、基本計画もできていないのに設計を請け負った竹中工務店へ約8億5000万円が支払われているのはおかしい。 2、名古屋市は竹中工務店の提出した基本設計図などの成果品を確認せず支払いをしており、市長はその責任を負うべきだ。 3、市建築審査会の同意を得ないまま建築しようとしており違法だ。 4、文化庁基準ではコンクリート天守も耐久性の補強は可能であり、復元以外の整備方法も検討すべきとされているが、それに反して建て替える必要はない。 これらの主張に対し、判決では、契約上の基本設計図面等の成果品は揃っているので支払いにも問題はなく、今後第三者機関の評価を受けることで木造復元は可能などとして訴えを退けた。原告側は弁護士を立てずに市民だけで訴訟に臨んだが、行政訴訟の壁は厚く、全面的な敗訴となった。