名古屋城の木造復元差し止め訴訟 主張が受け入れられた名古屋市が心から喜べないワケとは?
「本物」の木造復元は今や困難
名古屋城建て替えに関する許諾権をもつ文化庁は、今年6月に「鉄筋コンクリート造り天守等の老朽化への対応について」という文章を発表し、名古屋城を含めた全国13の史跡に所在するコンクリート天守の老朽化対策に関しての指針を示した。それによると、それらの多くに「往時の姿を伝える」「地域のシンボル」など一定の価値を認め、活用方策とバランスを取りながら老朽化に対してメンテナンスするのが望ましい、としている。その中には「木造による再現の可能性の模索」という、いかにも名古屋城を指しているかのような文言も入っている。 名古屋城は前述の4つの問題点をどのように解決するのかを模索し続けたまま、時間だけが過ぎている状態にある。竹中工務店は当初、木造ながら耐震耐火構造でエレベータも備えた復元プランを提出したが、河村市長が「それでは本物ではない」として却下。完全な木造復元を指示したが、その実現は限りなく難しい。 例えば、現在のコンクリート天守はケーソンというコンクリート基礎の上に乗っているが、往時のままとなれば石垣の上に木造天守を乗せなければならない。しかし、それは本質的な価値のある石垣を痛めることになるためできず、市は苦肉の策としてケーソンの上に鉄骨で基礎部分を組み、上部は木造という、やはりハイブリッドな工法を発表している。 しかし、これでは河村市長が主張する「往時のままの木造天守」と言える代物ではないのではないだろうか。そして、今のところ、河村市長がハイブリッド工法による復元を認めたという話も筆者のところには伝わってこない。 木造復元に関する問題を何も解決できないまま、来年4月に名古屋市長選がやってくる。2009年の初当選以来、10年以上市長の座にある72歳の河村市長は、出馬に関してまだはっきりした態度を表明していない。が、あまりに難しい課題ばかりが山積する名古屋城天守木造復元計画に関しては、もし市長が交代すれば見直さざるを得ないだろう。 今回、訴訟で敗れた木造復元反対派はもちろんのこと、無理難題を実現するよう言われ続けている名古屋市の担当者などもその時を待っているように見えるのは、筆者だけだろうか。 (水野誠志朗/nameken)