微生物が電気をつくる「燃料電池」その実力と可能性とは?
ところが、電流生成菌は、有機物の分解時に発生する電子を体の中から外へ放出する機能を持っているので、たとえ酸素がないときにも、有機物からエネルギーを取り出し続けることができる。微生物燃料電池は、この機能を利用しており、電流生成菌から出てきた電子を負極で受けとり、外部回路を通じて正極に電流を流している。 発電効率はどのくらいなのだろうか。渡邉教授によると、「もっとも良い条件ならば、1リットル容器を使った電池で数Wほどの出力は出せると思われます」ということなので、たとえばあるノートパソコンの消費電力が10Wだったとすれば、この電池を数個使えば動作させられることになる。
下水処理場の汚水処理用途で実用化へ
とはいえ、ノートパソコンの電源として使用するには、今の微生物燃料電池は大きすぎるし、重すぎる。リチウムイオン電池など、現在使われている電池に微生物燃料電池が取ってかわるとは、現状では考えにくい。 用途として有望視されているのは、下水処理場の汚水処理だ。現在、下水処理場の汚水処理は微生物によって分解する活性汚泥法が使われている。この方法は、微生物を働かせて汚水中の有機物を分解するために、空気(酸素)を水中に送り込む曝気が必要だが、これには大量の電気が必要となる。酸素がいらない微生物燃料電池を使えば、曝気は不要になるからその分電気使用量を削減できる上に発電までしてくれる。 汚水処理への応用については、処理性能の向上が課題だった。これに対し、渡邉教授の研究グループは2013年5月、廃水処理に適した微生物燃料電池を開発し、活性汚泥法と同等の処理速度を確認できたと発表した。容器の中に、負極と正極の電極を一体化したカセット電極を交互に並べ、汚水がスラローム状に流れる流路を作ったことで、処理性能を高めることができたという。 下水処理場への微生物燃料電池の導入について、渡邉教授は、「今後5年前後で実現する可能性もある」と予想する。活性汚泥法と同等の処理速度で、しかも電気使用量の大幅な削減が実現するならば、将来的に微生物燃料電池を用いた省エネ型汚水処理の採用が広がる可能性はありそうだ。この他、バイオマス発電への応用も検討されているという。 もっとも、電流生成菌については、まだよくわかっていないところも残っていることから、さらに研究を進める必要があると渡邉教授は指摘する。発電効率を高めるため、電極についても新たな材料の探求、開発が必要だという。