今の宇宙で「ヒッグス場の崩壊」が起きていない以上、「原始ブラックホール」は無いかもしれない?
■原始ブラックホールの蒸発はヒッグス場の崩壊を招くと判明!しかし……
このような背景がある中で今回、Hamaide氏らの研究チームが注目したのが「原始ブラックホール」です。原始ブラックホールとは、初期の宇宙でヒッグス場の生成と同じ頃に生成されたと考えられている、極めて軽いブラックホールです。重力でのみその存在を知ることができる「暗黒物質(ダークマター)」の一部を構成しているという説や、初期の恒星や銀河の形成を補助したのではないかという説があるなど、宇宙論における興味深い存在として知られています。 そして、原始ブラックホールは極めて軽いため、「ホーキング放射」と呼ばれるプロセスで少しずつ質量を失い、最後には大量の放射をしながら消えてしまうと考えられています。この現象は「ブラックホールの蒸発」と呼ばれています。原始ブラックホールの蒸発は、遠くから観測すると超新星爆発のような高エネルギー現象のように見えると予測されており、蒸発プロセスを通じて原始ブラックホールの実在を確かめる観測も行われています。 しかし、標準的な宇宙論で予測される原始ブラックホールの数からすれば、とっくの昔に原始ブラックホールの蒸発を観測できていてもおかしくないのですが、実際には今のところ確定的な候補は1つも見つかっていません。このため、原始ブラックホールの数はもっと少ないのではないかとする修正案もありますが、原始ブラックホールという存在自体が幻なのではないかという説も提唱されています。 Hamaide氏らは、原始ブラックホールの蒸発で発生する高エネルギーな環境は、ヒッグス場を崩壊させるのに十分なのではないかと考察し、検証を行いました。現在の理論では、質量が10億トン未満の原始ブラックホールは、ヒッグス場の形成から現在までの間に蒸発しているはずです。 検証の結果、原始ブラックホールが蒸発する直前には、ヒッグス場の崩壊を招くのに十分なほどの高温に熱せられるホットスポットが生じることが分かりました。つまり、原始ブラックホールが本当に存在するならば、宇宙は約138億年の歴史の中で、いつでもヒッグス場の崩壊が起きることになります。しかし実際には、明らかにヒッグス場は崩壊していないようです。