なぜダービーを3番人気ドウデュースが驚異的タイムで制したのか…53歳の武豊が見せた3つの“神”騎乗テク
Cコース替わりとなった今週は、全体的に時計が速く、それでいて前に行った馬が止まらない競馬が多かった。実際、今年のダービーを前後半5ハロンのラップでみると58秒9に対し、59秒0とミドルペースに近い。並みの騎手なら好位をキープしたくなるところだろう。事実、アスクビクターモアは2番手から3着、プラダリアも5番手から5着とこのあたりに展開が向いたように思える。 それが4コーナーではドウデュースは14番手である。 ドウデュースを管理する友道康夫調教師は、その直線のポジションを見て「前との差が詰まらなかったから、ちょっと大丈夫かな?と思った」と不安になったという。 その危険な位置に平然と身を置けたのはダービー歴代最多33回目の騎乗という経験値。しかも最後の直線ではじんわりと外に出し、内から併せようとしたイクイノックスの進路さえ阻んだ。 もちろん馬も強かった。久々に集まった6万超の観衆の熱気が誘発したのかもしれないが、2分21秒9のダービーレコードは昨年のシャフリヤールがマークした2分22秒5を大きく更新する驚異的なタイムだ。 ノーザンファームの吉田勝己代表も「22秒台は読めていたが、21秒台が出るとは」と驚いたほど。そんな高速馬場にもかかわらず、追い出されると鋭く反応し「先頭に立つのがちょっと早すぎて、少し気を抜こうとしていた」と、武豊が振り返るのだから相当なポテンシャルを秘めているのは間違いない。 戦前には、今回のダービーは、皐月賞上位馬による「4強争い」と評されていたが、終わってみれば「1強」のレースだった。
敗れた残り3頭の敗因についても検証してみよう。 皐月賞馬のジオグリフは7着に沈んだ。鞍上の福永祐一騎手は「課題のスタートは決まったが、内の馬に入られ、取りたい位置で競馬ができず、体力を温存できなかった」と分析した。ただ、レース内容をみるとやはり距離の壁があったと言わざるを得ない。 1番人気に支持されながらも4着に終わったダノンベルーガの川田将雅騎手は「リズム良く競馬ができて、直線もスペースがありましたし、あとは伸び勝つだけだったんですが…。今回できる精一杯の走りをしてくれました」と報告。馬体重マイナス10キロが仕上げのリミットを超えていたかどうかは微妙なところだが、鞍上の言葉通りなら現時点では単純な力負けだろう。 惜しかったのは皐月賞に続き2着に入ったイクイノックス。クリストフ・ルメール騎手は「3~4角の手応えも良く、直線でも前を捕らえられると思った。最後に勝ち馬がもうひと伸びした」と話したが、今回も大外枠が微妙に影響したようで、首差だったことから、今後、打倒ドウデュースの可能性を唯一秘めた馬なのかもしれない。 50代で6度目のダービー制覇を成し遂げた武豊を支えているのが競馬への愛と向上心だ。 「騎手を辞めようと思ったことはないし、もっともっとうまくなりたいと思っている」 10年に毎日杯で落馬してから専属トレーナーを付けての肉体改造に取り組み始めた。そのトレーニング理論は、阪神の藤浪晋太郎がアドバイスを求めたほど。道具へのこだわりは20代から始まり、いまでは当たり前の体にフィットしたエアロスーツを導入する先駆けとなった。軽量ブーツ、さらに2019年からは、アブミにも関心を寄せ、オリジナルのものを開発してもらっている。 「勝てば、自分もうれしいし、関係者みんなで喜べるから」 プロ野球、芸能界など、各界との人脈も広く、人望も厚い。交流の深い馬主も多く、ドウデュースを所有する(株)キーファーズの松島正昭氏もその1人だ。 3歳世代の頂点に立ったことでドウデュースは世界への扉も開いた。 松島オーナーは常々「武豊騎手と凱旋門賞を勝つのが夢」と公言しており、この日のレース直後に改めて、挑戦プランを明かした。 武豊は「日本のダービー馬で挑戦できる。大きな夢を与えてもらった」と目を輝かせた。武豊にとって凱旋門賞は、リベンジの舞台。06年に“無敗の最強3冠馬”ディープインパクトとのコンビで挑み、1番人気に支持されたが3着入線に終わり、のちに禁止薬物の検出で失格となった。今度こそ円熟の「経験値」で世界の頂点へ。友道調教師も16年マカヒキで同年ダービー馬の凱旋門賞挑戦には経験がある。ドウデュースと武豊の挑戦と夢は、ここから始まるのだ。