上司の「ゆっくり休んで」で離職決断 親の介護を会社に相談しても溝埋まらず
ここで企業の介護支援制度の優れた事例を紹介しよう。 日本製鉄子会社、日鉄ソリューションズのものだ。社内ウェブサイトやハンドブックを通じて介護に関する基本的な情報を提供する。外部の専門家によるセミナーを開き、介護と仕事の両立について啓発する。社内風土づくりも押さえた包括的な内容だ。 【関連画像】Q.介護について職場に相談したか?(イラスト=モリナガ・ヨウ) セミナーの目的は「自分は仕事と介護の両立に課題を抱えているかもしれない」との自覚を促し、外部の専門事業者や産業ケアマネなどとの具体的な個別相談につなぐこと。支援が必要な社員がいれば、事業者からのフィードバックに基づき、上司が働き方を調整したり、介護体制を構築するための休暇を与えたりする。 ただし仕組みをまねるだけでは効果は限られる。サイトもハンドブックも見なければそれきりで、セミナーも多くは出席が義務ではなく、いや応なしに情報に触れる機会にはならない。「自分とは無関係だと思えば見てもらえないし、空いた時間があっても仕事が優先される。利用者がなかなか増えない」と、多くの企業の人事担当者が出席率の低さに頭を抱えている。 ●心の壁を打ち崩す難しさ これには、介護に悩む人の問題が極めて多種多様ということも影響している。介護で直面する課題は、例えば介護する親が歩けるか、補助が要るか、寝たきりか、食事は自分で取れるか、認知症の有無や程度、子の住まいは実家か近所か遠距離か……と数え切れないほどのバリエーションがある。 状況に応じて介護する人が求める情報が大きく変わってくる。だから「一般的な介護相談セミナーを受講しても、解決策が得られず心の支えにならない」(自由回答より)という評価になりやすい。 解決策を得るには個別相談で詳しく状況を説明する必要がある。しかし、その入り口になるセミナーが型通りの情報をなぞるものでは、社員の心の壁を打ち崩すのは難しい。「なるほど、この人なら相談してみたい」と響くようなセミナーができる講師でないと、出席者も個別相談の利用も増えない。セミナー一つとっても、難しい課題がたくさんあるのだ。 会社側の担当者にこうした課題を突破しようとする知識と熱意がなければ、いくら仕組みを整えても社員は反応してくれない。育児支援に比べても、介護支援が難しい理由はここにある。 それどころか、もし担当者が「型通りに済ませよう」という意識で介護の課題を抱えた社員に接すると、もともと持っている不信感が増幅されてしまう。「休暇は取れますので、あとは資料を読んで自分でやってください」というドライな対応や、「介護はあなた個人の問題だから……」といった上司の言葉は、社員の「介護=ペナルティー」という思い込みを強化し、会社には頼れないという思いを一段と強固にしてしまいかねない。