上司の「ゆっくり休んで」で離職決断 親の介護を会社に相談しても溝埋まらず
理想の両立像と制度をセットで示す
十分な知識があれば、最短数日で仕事との両立が可能という結果になるが、「数万件の回答サンプルから分析すると、平均して40~50日が必要」と、チェンジウェーブグループの中根愛・ビジネスケアラー支援事業本部法人営業部長は話す。この間、働き手本人を含めた家族で親の面倒を見ざるを得ず、これが自力介護のきっかけになってしまう可能性も大いにある。 LCATを導入するからには、介護支援に対する意識が高い企業のはず。だが、それでもその会社の社員が公的支援を使えるまでには、約2カ月の準備期間が要る。 産業界全体を見渡すと、企業の介護支援を巡る現状は厳しいと言わざるを得ない。打破するための出発点は「介護の知識がないと具体的にデメリットがあり、知識があれば明確なメリットを得られる」と知ってもらうことだろう。「まだ先」と思っていた社員でも介護への意識が高まれば、状況も変わるかもしれない。 チェンジウェーブグループにはこの2~3年で、「自分に関係ないと思っている人や若年層を介護支援の体制づくりに巻き込みたいが、どうすればいいか」という企業からの相談が急増しているという。 とはいえ、LCATのようなサービスを導入すれば解決というわけでは、もちろんない。「両立の姿はこれだという、その会社の理想像とセットで制度を打ち出さなければ、介護への理解も支援策の利用も進まない」と中根氏は指摘する。 社員が不安なく悩みを打ち明け、働き続けられる職場にするために、経営層や人事部門は具体的に何をすべきなのか。次回以降、この問いへの答えを求めて奮闘する事例を見てみよう。 SURVEY 日経ビジネスアンケート調査から 【経験者の声③】会社は頼りにならない 家族での介護で疲弊している。勤務先からは特に支援を受けたことがないしあるのかも知らない。支援があるなら社内報や一斉メールで通知してほしい。 (50~54歳、男性) 人事に相談依頼をかけたが「メールで回答させていただきます。まずは上司にご相談ください」との返信があった。上司に相談する上で詳しい制度設計などを確認したかっただけなのに、ずいぶん冷たい対応だと思った。恐らく担当社員がまだ若い人なので実感が湧かないのではないかと思う。 (50~54歳、女性) 勤務先は育休ばかりが優遇されビジネスケアラーには目が向いていない。 (55~59歳、女性) 勤務先の雰囲気にもよるが、介護について上司に相談できる雰囲気ではない。 (50~54歳、女性) フルタイム勤務で介護の時間をつくるのはちゃんと社内全体に浸透した体制がないと厳しいと思う。 (50~54歳、女性) 上司や上位上司、幹部などに介護の経験はおろか子がいないため子育てすらしたことがない人が多く、言ったところで何も伝わらず無駄だった。 (50~54歳、男性) 会社は頻繁に休む従業員、転勤に支障のある従業員のことをあまり快く思っていない。他人にしわ寄せがいくので、その埋め合わせには相当のエネルギーが必要。 (50~54歳、男性) 注:自由回答欄に寄せられた声の一部。可能な限り原文のまま掲載します
山中 浩之、馬塲 貴子