上司の「ゆっくり休んで」で離職決断 親の介護を会社に相談しても溝埋まらず
善意を戦力外通告と誤解
実は本誌のアンケートでは「介護離職した人たちのほうが、会社に介護について相談していた」という、ちょっと首をひねるような結果が出ている。 生活状況を含む介護者・要介護者のステータスには多少の差はあるものの、これほどまでに違いがあるのはなぜだろうか。会社の支援策への失望が退職を決意するきっかけになった、とまでは即断できないが、何らかの要因が介在しているのは確かだろう。 介護に悩む多くのビジネスパーソンの声を聞いてきたNPO法人となりのかいごの川内潤氏が、こんな話を教えてくれた。 「個別相談で『介護を理由に会社から戦力外通告された』と打ち明けてきた人がいた。だがそんなことを言う冷たい会社なら、私(川内氏)をわざわざ雇わないと思ったので、実際に上司は何と言ったのですかと聞いてみた。すると『とにかくゆっくり休んでください』だった。こういうことはよくある」 「介護中の部下を追い込む『休んで親孝行を』 善意のはずが離職誘う」の再現ストーリーで示したのは、この事例だ。介護に悩んでいる社員は会社への負い目やプレッシャーを感じ、純粋に善意から出た言葉でも「自分は会社から悪く思われている」というバイアスをかけて受け止めてしまう。会社の支援策に接した人のほうが離職するという数字の裏に、当事者のそんな複雑な気持ちがあるのかもしれない。 このように、制度をつくっても社員の「介護=ペナルティー」という意識が災いして逆効果を生んでしまうこともある。しかし、言葉の受け止め方は人によって異なる以上、上司や担当者に完璧な対応を求めるのはどだい無理な話だ。 ●介護を語り合える環境づくり 仕事との両立を可能にして介護離職を防ぐために重要なのは、年齢、役職、今介護に携わっているかどうか、などの条件に関係なく、介護が「いつ誰にでも降りかかり得る課題」として話ができる職場環境をつくることだ。 それには多くの社員がある程度の介護についての知識を共有している必要がある。その機会を与える手段の一例が、チェンジウェーブグループが企業に提供している「LCAT(リクシス・ケア・アシスタント・ツールズ)」というeラーニングプログラムだ。 NTTドコモ、ハウス食品グループ本社、中外製薬といった大手企業による導入が相次ぐ。 約70問に答えることで「今、突然介護が始まったら、介護と仕事の両立体制構築まで何日かかるか」を診断し、一人ひとりの両立準備度を可視化。それに合わせた研修コンテンツを提供する。