注目のミュージシャン、クレア・ラウジーが奏でる「エモ・アンビエント」 ジャンルに縛られない音楽づくり
――オートチューンを使って加工された声は、何か包み込むようなベッドルーム的なイメージを想起させると同時に、ジェンダーの揺らぎを表現するアプローチとしての側面もあるように思います。
クレア:両方あると思います。例えば、ハイパーポップには、オートチューンを使ってジェンダーやジェンダー・アイデンティティーについて実験している人たちがたくさんいます。これは10年ほど前から続いているトレンドです。そして、オートチューンを使って理想のサウンドをつくり出すという行為には、社会の規範に当てはまらない人たちが集まって、自分たちだけのコミュニティーや安全な場所みたいなものをつくり出すという側面があると思う。
例えばポップ・ミュージックの制作において、オートチューンの目的は可能な限り完璧なものをつくるためのツールとして使われることが多い。オートチューンは、完璧なメロディや歌い方をするために修正してくれます。 だから同時に、完璧なメロディや歌い方から外れると、自分が完璧でないことを思い知らされるというか、その完璧さの裏側にある人間の不完全さを見せつけるものでもあって。そんな矛盾が魅力なのかもしれない。人を楽しませるための、ちょっと皮肉が混じった遊びみたいな。完璧なはずなのに、どこか不自然で、だけど人間らしさが感じられる――それが面白いと思う。
セルフケアやアートワークについて
――セルフケア、心身のメンテナンスで心掛けていることは何かありますか。
クレア:そうですね、いろんなところを飛び回っているので、身体が常にジェットコースターに乗ってるみたいになってしまっていて。だから、家にいる時はなるべく身体を休ませるためにいろいろしています。ツアー中も、ホテルに泊まる時は必ず入浴剤を持ち歩いていて、毎晩、寝る前には30分くらい瞑想して身体を落ち着かせて。そして寝る時は、アイマスクをして、背中にホットパックを貼って、膝の下に枕を2つ挟んで寝ている……ちょっと変わってますよね(笑)。部屋も真っ暗にして、壁も窓も遮光して、完全に外界を遮断しないと眠れないんです。それとベッドにはこだわりがあって、特にシーツは高品質のものを選んでいます。朝はストレッチをたっぷりして、保湿剤を塗ったりパックする時間も、自分と向き合うことができる大切な時間なんです。自分は元々、そういうことは全然しないタイプで。詳しい友達がいて、彼女に教えてもらうまで、自分の身体を大切にすることってこんなに心地いいものだって知らなかった。以前は、移動もカバン一つで、たばこを吸ったり、一晩中お酒を飲んで、どうにでもなれ、みたいな感じで(笑)。でも今は、自分自身をケアするためのアイテムで、旅行カバンがほぼ埋まるくらいです。