がん患者からよく聞かれる質問「免疫力を高めるにはどうしたらよいのですか?」
Dr.高野の「腫瘍内科医になんでも聞いてみよう」
がん研有明病院院長補佐の高野利実さんが、がん治療に関する素朴な疑問にQ&A形式でお答えします。 【図表】マイコプラズマ肺炎と一般的な肺炎の違い
「免疫力を高めたいのですが、どうしたらよいですか?」 がん患者さんからよく聞かれる質問です。 免疫というのは、生物が、病原体や異物から「自己」を守るための仕組みです。 ウイルスや細菌を排除することで、感染を防ぎ、感染しても治してくれます。 免疫力が下がると、感染症にかかりやすくなり、ちょっとした感染症で重症化することもありますので、免疫力は高く保っておきたいものです。
簡単には説明できない「免疫力」
ところが、がんにかかったり、がんの治療を受けたりすると、「免疫力が下がる」と言われてしまいます。実際、がんの経過中に感染症にかかって、入院が必要になることもあります。抗がん剤治療を受けると、白血球が減って、感染症のリスクが高まりますので、注意が必要です。 がんという病気だけでも大変なのに、感染についても気にしなければならず、不安が尽きません。 免疫は、感染症だけでなく、がんを抑えることもあります。がん細胞を、自分の細胞とは異なる「非自己」と認識し、排除しようとする働きで、「がん免疫」と呼ばれます。 「免疫力が落ちたら、がんに対する治癒力も落ちてしまうのではないか」という心配の声や、「がんを抑えるためにも免疫力を高めたい」という切実な声もよく聞きます。いろいろな意味で、がん患者さんは、「免疫」に敏感になっているようです。 「がんと闘うには、免疫力を高めることが重要で、そのためにはこんな食事がよい」と、食事療法を紹介する書籍もたくさん出ています。 「免疫力アップ」という宣伝文句がついた健康食品やサプリメントもよく見かけます。がん免疫療法と称して、有効性の確立していない治療を、高額の自費診療で行っているようなクリニックもあります。 世の中を眺めてみると、「免疫」という言葉は、いいように使われているような印象があります。「免疫力」というバロメーターがあって、簡単に上がったり下がったりするようなイメージで語られていますが、実際の「免疫」は、もっと複雑で、つかみどころがなく、単純な指標で評価するのは難しいものです。 「免疫って具体的にどういうものなんですか?」と聞かれて簡単に答えられる専門家はいませんし、「免疫力はリンパ球数のことです」なんて明確に答える人がいたら、それは免疫についての正しい理解とは言えません。 「免疫」というのは、明確な実体がないにもかかわらず、言葉自体はよく知られていて、免疫力は高い方がよいという漠然とした共通認識がありますので、健康食品を売りたい業者や、治療を宣伝したいクリニックにとっては、とても使いやすいキーワードになっています。健康食品や治療の紹介で、「免疫」という言葉が出てきたら、まずは疑った方がいいのではないか、と私は思っています。