ドイツから名古屋の有松鳴海絞りをリブランディング、伝統工芸アパレルを刷新した風通しの良さ
「『風通しの良い』とは、私が日本の美大受験の予備校で教わった言葉です。2次元で描くのではなく、物を空間に置かれているように立体的に描きなさいという教えです。これを、ものづくりのデザインに置き換えてみました。 商品の後ろにある景色を意識しながら、つまりニューヨークの摩天楼であったり、イタリアのビーチであったり、ドイツのインダストリーなクラブであったり、そういう背景にスズザンが作るプロダクトが溶け込んで成立できるようにしたいと思いました」 有松から遠く離れたからこそ見えた、プロダクトに対する景色があった。
「有松の中だけなら、現状のままでもまだ存続できます。しかし有松という地域から外に出たときに、途端に旧来の有松絞りでは風通しが効かなくなるんです。父は相当な職人肌。同じものをずっと見続けている人にしか見えない視点もある。そこは私もリスペクトしています」 体験の違いは異なる視点を生み、時には衝突も生む。 「父は私がデザインしたものを『子供騙し』とか『絶対に売れない』とか言うんですね。一方で私も、負けじと対抗して頑張る。最終的な説得力は、売れるかどうかです。売れたときにはデザイナーとして『ほらね』と思います。 もちろん、売れたのは素晴らしい職人技があってこそで 、そこはデザインと技術のバランスだと思っています」
目が秀でるヨーロッパと、手が秀でる日本
村瀬さんが考える日本とヨーロッパとの違い。それは「目の文化」と「手の文化」であるという。
「ヨーロッパは価値付けがとても上手で、目を鍛え上げている人たちだなと感じます。特にフランスはブランディングがうまくて、日本が学ぶべきところはたくさんある。 フランスのような華やかなショーを、日本が同じくらいうまくできるかというと、おそらくそこまで得意ではないです。 一方、日本は、精緻なものや人間味あるものものを実際に手を動かして作ることは得意です。ヨーロッパはどんどん目を良しとしてきたばかりに、ものづくりの根幹である手の部分がなくなってきている。 実際に日本は、手で作られたものが、まだ生活の中に根強く残っています。しかしドイツでは、たとえばファッションのテキスタイルでメイド・イン・ジャーマニーなんて、ほぼゼロに近いです」