ドイツから名古屋の有松鳴海絞りをリブランディング、伝統工芸アパレルを刷新した風通しの良さ
「美しい」 実家で作られ、古臭いと思っていた布が、海外の人たちの目には見たことのない商品として映る。日本では廃れていくと思われていたものに、拠点を移したことで、新しい価値が付与される。その瞬間を目の当たりにした村瀬さんは、「有松絞り」という産業を残したいと思った。
どうすれば伝統工芸は売れるようになるのか
デュッセルドルフでアートを学んだ村瀬さんが取った道は、有松絞りをコンセプトにしたブランドの立ち上げだった。 「有松絞りをアートとして用いると認知度向上にはつながりますが、それが有松にいる職人さんの利益に直結するかというと難しいです。他のブランドからOEMとして受注する方法もあります」 有松絞りの技法は、見た目が印象的なため、どこかのブランドの コレクションで取り入られても、その後のシーズンではしばらく扱われなくなることが多いという。 「それなら有松絞りそのものをブランドコンセプトにしてしまえば、需要は安定し、職人さんにも継続的に仕事を回せます」 経済産業省が指定する 伝統的工芸品は北海道から沖縄まで241点(2023年10月26日時点)。いずれの産地も高齢化が進み、新しいものづくりができない状況にある。村瀬さんがブランドを立ち上げた当初も、有松の職人の主力は60~90代。次の世代がいないのは、人を雇えるだけの資金力がないからだ。 「国から補助金が出る期間は雇えますが、その後が続かないんです」 しかしスズサンでは2年前から27歳の女性従業員の賃金が、同年齢の全国平均を上回った。有松絞りの消費者の購買意欲を引き出したのは「風通しの良いデザイン」である。
「職人さんは、どれだけ細かく丁寧に時間をかけて作ったか、技術を見せたがります。『これは3ヶ月かけて作った。すごいだろう』って。 それはそれでとてもすごいことなのですが、普段の生活でそのデザインを取り入れられるかというと、個性が強過ぎます。手間暇をかけることでコストも上がってしまいます」 そこで、ものづくりの考え方を変えた。