米雇用統計、しつこい賃金インフレ 年明け以降の利上げ幅縮小は不透明に?
早期回復は期待しにくい労働者不足
注目の労働参加率は62.14%と0.11%pt低下しました。年代別にみると一度はパンデミック発生前の水準を回復した働き盛り世代の25~54歳(82.5%→82.4%)が2カ月連続で低下し、同時に55歳以上(38.9%→38.8%)が低水準から一段と低下しました。パンデミック発生当初、55歳以上の労働参加率はパンデミック収束とともに鋭く回復していくと期待されましたが、現時点においてそのペースは驚くほど鈍く、人手不足の主因になっています。 なお米政府機関の分析によれば現在の雇用者数はパンデミックがなかった場合に予想された水準を約350万人下回っています。Fed(フェド)の分析によるとその内訳は移民減少によるものが約100万人、コロナによる超過死亡が約40万人、その他はいわゆるFIRE(金銭的独立を果たした人々の早期退職)やコロナ後遺症に悩む人々が労働市場から退出したこと(=労働参加率低迷)があり、人手不足にはこれら複合的要因があるとされています。換言すれば、労働者不足は構造的色彩を帯びているため早期の回復は期待しにくいということです。 賃金インフレの行方を読む上で重要な平均時給は前月比+0.6%、前年比+5.1%へと大幅に加速し、3カ月前比年率(3カ月平均)では+5.1%へと再加速しました。小売、運輸といった業種で相対的に賃金の低い労働者を中心に人員削減が進められたことで「平均」がテクニカルに押し上げられた可能性には注意が必要ですが、それでも労働供給が限られる中で賃金上昇圧力がなお強いことを再認識させる結果でした。
12月の利上げ幅縮小の予想は変わらないが…
今回の結果は12月FOMC(米連邦公開市場委員会)における利上げ幅縮小(75bp→50bp、※1bp=0.01%)の予想に変更を迫るものではありません。しかしながら、賃金インフレのしつこさを示すデータは2023年2月以降の利上げ幅が25bpへとさらに縮小するとの筆者の予想に疑問を投げかけました。 11月に入って以降、ターミナルレート(政策金利の最終到達点)が徐々に見えてきたことで長期金利の上昇圧力は和らいできましたが、今回の雇用統計はFedにとって失望的だった可能性が高く、それを受けて12月FOMCではFedが再びタカ派色を強めても何ら不思議ではありません。その場合、2023年末までに約50bp(25bp刻み)の利下げを織り込んでいる現在の市場参加者の金利見通しは修正を迫られる可能性が高いと思われます。
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