堅調な米雇用統計は“Bad News” いよいよ濃厚なFRB利上げ継続
米労働省が発表した雇用統計は市場の期待を“裏切る”底堅い内容だったといいます。米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利上げの継続が強く示唆される結果となったからです。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】英トラス政権の大型減税が「トリプル安」誘発…ここから学べることは何か?
「利上げに耐えられる」FRBに自信与える
9月米雇用統計を受けて米国株の下落に拍車がかかり、11日の日本株も大幅に下落しました。これは雇用統計の内容が良かったゆえの逆説的な反応で、金融市場参加者はこれを「Good News Is Bad News」と表現しています。雇用統計の結果は、FRB(米国の中央銀行)が11月FOMCにおいて4回合連続で0.75%の利上げをすることを正当化するものでした。このように堅調なデータは労働市場が利上げに耐えられるとの自信をFRBに与え、金融市場参加者のリスク選好度を低下させます。 雇用者数は前月比+26.3万人と市場予想に概ね一致し、過去分は+1.1万人上方修正されました。増加幅の3カ月平均値は+37.2万人と順調な回復軌道にあり、企業の採用意欲がなお旺盛であることを示しました。過去数カ月、求人件数は空前の高水準から減少に転じたものの、企業は人手不足に対処するため労働者確保に積極的な姿勢を維持している模様です。今後、企業収益の悪化によって雇用者数の増加ペースが衰える可能性は否定できませんが、雇用者数の水準が新型コロナのパンデミック発生前のトレンドで延伸した水準を大幅に下回っていることに鑑みれば、今後も雇用者数の増加傾向それ自体は維持されるでしょう。
低い失業率と時給高止まりも「0.75%」後押し?
9月雇用統計で「台風の目」となったのは普段あまり注目されない失業率でした。3.7%で横ばいが見込まれていた失業率は3.5%へと低下し、労働市場の底堅さを映じて“しまいました”。3%台半ばの失業率は4%台半ばへの上昇を覚悟しているFRBにとって低すぎる水準にみえます(※FRBが9月に公表した見通しによると、失業率は2023~24年にかけて4.4%へと上昇する)。失業率が低く、労働者優位の状況は、賃金の異常値的上昇を通じて高インフレ定着の恐れを増幅させることから、FRBの金融政策を引き締め方向に動かす要因となります。FRBの金融引き締め終了を切望する金融市場参加者にとって今回の失業率低下は悪いニュースに他なりません。 今回の雇用統計で残念だったのは平均時給の高止まりと労働参加率の低下でした。平均時給は前月比+0.3%、前年比+5.0%と市場予想通りに減速したものの、依然としてパンデミック発生前を著しく上回っています。背景にあるのは労働参加率の低下、すなわち労働市場から人々が大量離脱したことによる労働者不足ですが、労働参加率は2022年入り後も回復は遅々としており9月は期待に反して62.30%へと低下しました。年代別にみると55歳以上(38.6%→38.8%)が異例の低水準から上昇した一方、既にパンデミック発生前の水準を回復していた働き盛りの25~54歳(82.8%→82.7%)が低下しました。25~54歳の労働参加率低下は一過性事象とみられ現時点で悲観は不要と考えられますが、55歳以上の回復ペースは驚くほど鈍く、賃金インフレの鎮静化に相応の時間を要することを物語っています。 このように9月雇用統計は次回11月FOMCの利上げ幅が75bpになることを強く示唆しました。もちろん13日発表の9月米消費者物価指数(CPI)も重要ですが、それが驚くほど低下しない限りにおいて0.75%の利上げ予想に変化は見込まれません。
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