天文学、宇宙物理学においてスーパーコンピューターはどのように貢献してきたか?
スーパーコンピューターによる天文学・宇宙物理学の進展
スーパーコンピューターの進化のおかげで、より計算量の多い天文学や宇宙物理学の問題の解決に寄与することが可能となりました。重力によって相互作用しているN個の粒子が力学的にどのように進化するかを計算機上に再現する「N体シミュレーション」では、重力の値を単純計算すると粒子数の2乗のオーダーの計算量となるため、数値シミュレーションが不可欠です。一般相対性理論の基本方程式である「アインシュタイン方程式」の解法もまた、計算量の多いことで知られています。数値的解法としてADM形式(※2)が1960年代前半に考案されましたが、わずかな丸め誤差が増大し不適切な解を与えてしまうという欠点があったようです。1980年代後半に入り、ADM形式を修正した「BSSN形式」が考案されたことで、数値相対論の精度が向上した模様です。 ※2…アインシュタイン方程式の正準形式に相当するもので、空間の3次元と時間の1次元を分離することから「3+1形式」とも呼ばれる こうした計算量の多い問題を数値的に解析するにはスーパーコンピューターが必須であり、たとえばN体シミュレーションに特化した計算機「GRAPE」の第1世代(GRAPE-1)が国立天文台によって1989年に開発されています。数値相対論の分野でも、ブラックホールの合体シミュレーションがスーパーコンピューターによって実現可能になった模様です。
未来のスーパーコンピューターが切り拓く宇宙の謎
国立天文台は、並列処理に長けた「スーパースカラ方式」のスーパーコンピューター「アテルイ」シリーズを2013年から運用しています。アテルイは、惑星の形成や太陽活動、ブラックホールの進化、銀河・銀河団の形成、宇宙の大規模構造など、さまざまなシミュレーションに対応できると謳われています。海外に目を向けると、画像処理に長けた「GPU」を搭載したスーパーコンピューターである「Pleiades」や「Cabeus」がNASAエイムズ研究センターに設置されており、Cabeusが乱流シミュレーションの予測精度の向上に成功したことが2024年2月に報告されています。 近年、天文学や宇宙物理学で解明が求められているのが、「マルチフィジックスシミュレーション」と呼ばれる、複数の物理現象のシミュレーションを同時進行させる試みです。宇宙には、宇宙の大規模構造、銀河団や銀河の進化、星形成、星間塵などスケールの異なる物理現象が起きており、シミュレーションを同時並行で実行する必要があるといいます。 事実、アメリカ・オークリッジ国立研究所は、世界で2番目に速い(※3)スーパーコンピューター「Frontier」を使って、ダークマターとダークエネルギーという異なる天体のシミュレーションを実施したと、2024年11月20日付で報告されたばかりです。 ※3…オークリッジ国立研究所が公表したプレスリリースは、Frontierが世界最速のスーパーコンピューターと報じたが、AMDが2024年11月18日付で公表したプレスリリースによると、ローレンス・リバモア国立研究所の「El Capitan」が「Frontier」を抜いて世界最速のスーパーコンピューターになったとしている。 スーパーコンピューターの進化は、天文学や宇宙物理学の未解決問題の鍵を握っており、わたしたちの宇宙の理解をさらに深めることに貢献することが期待されます。