まちづくりに取り組む建築家が実践する、「自分の街は、自ら住みやすく変えていく」暮らし方 ニシイケバレイ/CaD 東京都豊島区・新宿区
Chanoma内観。広い土間スペースは外部と連続し、半屋外空間の中間領域となっている。
ニシイケバレイへと続く裏道。突き当りがChanoma、右手奥のベージュの建物がMFビル。西池袋(ニシイケ)の高層ビルの谷間(バレイ)、がネーミングの由来。
エリア全体を豊かな環境にしていくことが、個々の物件の価値を高めることにもつながるという深野さんの考えに共感した須藤さん。ニシイケバレイに建つ複数の建物に関係性をもたせ、ゆるく全体をつないでいくことを考えたといいます。
「ニシイケバレイは建物同士の間に通っている私道も含め、深野さん所有の土地でしたが、それぞれの建物が規模も構造もバラバラで、孤立している印象でした。そこで建物と私道を隔てる塀を壊し、植物を植えパーゴラを設け、敷地内で出た廃材を隣の建物に転用するなど、共通する操作で建物同士をつないでいきました。FUURO(店舗)が入居する一室は、バルコニーの手すり壁を撤去し、アルミサッシを木製サッシに交換して外部とつなげ、内外で同じ床材を使うことで外部の延長のように見せています。もともと専用住宅として建てられ、内側に閉じていた建物を用途に合わせて開いていきました。その方が快適ということもありましたが、新型コロナウイルスが流行したときも、一定の安心感があったと思います」
私道に設けられていたブロック塀は、一部撤去してコーポ紫雲の裏動線につながる小道を通した。
コーポ紫雲1階に入居するFUURO(器などを扱う店舗)。手すり壁を撤去して、直接私道に出られるようにした。
コロナ禍にオープンしたChanomaは混雑時には店外に行列ができるほどの人気店になっています。新設されたパーゴラや私道に設けられたベンチが順番待ちの人びとの休憩場所として活躍しています。 「集合住宅のひとつひとつの専有部の内装に投資をしても、それを享受できるのはその住人だけです。それであれば皆が使う場所に手を入れて、より良い環境にしていくことの方が、全体の豊かさにつながるのではないでしょうか」 私道に敷かれたアスファルトの一部を剥がし、植え込みとした点もリノベーションの重要なポイント。 「通常、公共の所有物である道路のアスファルトに手を入れることはできませんが、ここでは個人の所有物で、道路ではなく通路や建物の敷地内だったために剥がして土を剥き出しにすることができました。一見すると街の一部にも見えるアスファルトを、建物の外構の一部として扱うことで、境界を侵食し合う建ち方をエリア内で共有することができました」 鉄とガラス、コンクリートでつくられた池袋の街に、植物が繁茂している様子はそれだけで異色です。塀を撤去した分、植物が植えられていくことで、お互いに心地よい距離感を取ることができ、深野さんが目指す「顔の見える関係」づくりにも寄与しています。