世界を席巻しつつあるYOASOBIと日本発「Gacha Pop」の可能性
アニメの世界観を創造的に解釈
分かりやすいのは2023年のアニメ『推しの子』(4-6月期)の主題歌となったYOASOBI「アイドル」であり、24年の『マッシュル-MASHLE-』(1-3月期)の主題歌、Creepy Nuts「BBBB」である。これらが大ヒットしたのは、当該アニメへのリスペクトを感じさせつつ、その世界観を新しい形で解釈し、作品世界を拡張する楽曲になっているからだ。 1990~2000年代の「すでに出来上がっていた曲をアニメに当てはめる」や「ラストでアニメタイトルを絶叫する」といった表面的なコラボとは全く違う。『推しの子』のように、「アイドル」の歌詞が後々、アニメの原作マンガの伏線となるなど、音楽を物語の本筋とは別次元の、もう一つの “キャンバス” にしたことが大きい。 もちろん「人気アニメにタイアップしたから」という単純な話でもない。アーティストのアニメコラボ曲は数多くあり、その中には特に話題にならなかったものもある。アニメがはやれば必ず楽曲がはやるわけでも、楽曲が良ければアニメもはやるというわけでもない。あくまでそれぞれの「世界線」(本来のストーリーとは異なる展開・パラレルワールドなど)が見事なハーモニーを奏でたときに、視聴者の熱狂的な支持を獲得するのだ。
オールアジアの共鳴効果
Gatcha Popの全てが、アニメ由来というわけではない。imaseも藤井風もアニメタイアップではなく、あくまでその楽曲の独自性にK-POPのスターたちが魅了され、引用したことが発火のきっかけになっている。藤井風にいたっては、日本語のままではやっている。 (ヒップホップ/R&Bガールズグループ)XGなどの楽曲もそうだが、その流通過程を見ると、日本楽曲好きのアジアのインフルエンサーが取り上げ、韓国やタイ、インドネシアでバズを生んだものが、その後欧州や南米などを経由して北米に届く事例が多い。 今の日本楽曲の売れ方も、コロナ禍の3年間で急伸した「K-POPをきっかけとするアジア文化への興味」の延長線上として、日系への興味が拡張したというのが私の仮説だ。 2023年以降の日本楽曲のストリーミングによる海外での視聴ヒットは、その5、6年前から始まったアニメの動画配信や、2010年代後半からビックウエーブとなっていたK-POP音楽のストリーミング流通が背景にある。日本発楽曲が世界市場に定着するには、この「ボーナスステージ」が続いているうちに、多くの作品を送り出し続ける戦略が必須だ。今こそ、世界に向けて発信したいアーティストたちの背中を強く押すタイミングだろう。
【Profile】
中山 淳雄 エンタメ社会学者。1980年生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)、カナダのMcGill大学MBA修了。コンテンツの海外展開がライフワーク。2021年、エンタメ企業のコンサルティングを行うRe entertainment創業。主な著書に『クリエイターワンダーランド 不思議の国のエンタメ革命とZ世代のダイナミックアイデンティティ』(2024年)、『推しエコノミー「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(21年)など。