世界を席巻しつつあるYOASOBIと日本発「Gacha Pop」の可能性
中山 淳雄
4月、米ワシントンで開催された日米首脳会談後の公式晩さん会に招かれたゲストの中に、2人組の音楽ユニットYOASOBIがいた。結成から5年目で、いまや日本を代表するミュージシャンだ。2020年以降、デジタル視聴経由で日本の新世代のアーティストたちが世界に認知されつつある。内向きだった日本音楽業界の変化の兆しと、その背景を解説する。
国内売り上げはキンプリ・乃木坂46より下
YOASOBIは今、日本音楽が国境を越えて広がる世界的ブレークの最前線にいる。音楽ストリーミング、SNS、TikTokなどデジタル視聴の総量値として1000万組のアーティストの世界ランキングを毎日計測する「Chartmetric」を見てみよう。 コロナ以後で日本人最高位だったのは、米津玄師の402位(2020年8月11日=世界1億人がプレイするゲーム「Fortnite」のバーチャルライブに米津が登場した後の波及効果)だった。YOASOBIは2021~22年にランキングを駆け上がり、23年4月の「アイドル」配信後、7月15日に296位と過去最高記録を樹立。以後、世界ランクで400~600位を推移し、韓国のガールズグループ・LE SSERAFIMなどと競っている順位帯だ。 「唱」のヒットでAdoが301位(2023年10月11日)や、「Bling-Bang-Bang-Born」(BBBB)が大ブレークしたヒップホップユニットCreepy Nutsが541位(24年2月10日)など、一時的な急上昇を除けば、23年以降、YOASOBIが「世界で最もよく聞かれている日本人アーティスト」の座にある。 だからといって、日本市場でもトップというわけではない。世界と日本の音楽市場の間には、とても深い溝がある。日本の「オリコン年間ランキング」のアーティスト別セールスでは、YOASOBIは国内8位の57億円(デジタル部門では約46億で国内1位)。7位は乃木坂46の60億円、1位King & Prince(キンプリ)は218億円で、4倍以上の差だ。一方、Chartmetric順位で乃木坂は5000~10000位、キンプリはSpotifyに配信すらしていないためランク外だ。 CDとストリーミングの比率が3対1の日本音楽市場と、1対4の(北米中心の)海外音楽市場、このどちらを向いて活動をするかで売上構成も順位もガラリと変わる。前者では現在も旧ジャニーズ系や「坂道」系(乃木坂46、櫻坂46、日向坂46など)が上位を占め、後者でYOASOBIやAdoなどが海外からアクセスできる日本人アーティストとして突出しているというちぐはぐな状況である。