世界を席巻しつつあるYOASOBIと日本発「Gacha Pop」の可能性
「ガチャポップ」:王道から外れた楽曲たち
2023年5月、世界最大手の音楽ストリーミングサービスのSpotifyは、「日本のクールなポップカルチャーや音楽を新たなコンセプトで世界にプレゼンテーションする」プレイリスト「Gacha Pop」を公開した。YOASOBI、Ado、imase、米津玄師、藤井風、新しい学校のリーダーズなどを取り上げ、「What pops out!? Roll the gacha and find your Neo J-Pop treasure.(何が出るかな!? ガチャを回して新しいJ-Popのお宝を見つけて)」というコピー文を付けている。
Gacha Popとは、まさに日本のアニメ、ゲームの多様さをガチャにたとえて、何が出てくるが分からない面白さ、新奇性を表現した言葉だ。J-POPの勢いが増していることを象徴するプレイリストになっている。 2010年代には、AKB48、坂道系、ジャニーズや(EXILEなどを擁する事務所)LDH所属の “アイドル” や “TVスター” が、CD・音楽ライブ中心の「国内のメイントレンド」をけん引していた。一方、Gacha Popのアーティストたちの多くは、この「王道」から大きく外れたところに生息していた。 2007年、音声合成ソフト「ボーカロイド」の「初音ミク」が登場すると、同ソフトを使って楽曲づくりをするクリエーターたち(=ボカロP)が、動画配信インフラのニコニコ動画やYouTubeなどに精力的に投稿するようになった。 米津玄師は、ボカロPとして2000年代末から活躍し、ソニー・ミュージックレコーズ(同グループを総称して以後SMEとする)に所属したのは16年になってからだ。18年発売の「lemon」のヒットによって、世間一般に認知されるようになった “新しいアーティスト”である。 YOASOBIの作詞・作曲・編曲担当・Ayaseも、ボカロP出身。2019年10月に幾多りらとユニットを結成し、SMEから「夜に駆ける」をリリースしたのは同年12月。まだ4年強しかたっていない。Adoはボカロ楽曲の歌い手としてニコニコ動画で活動し、20年10月、歌唱力を評価されユニバーサルミュージックからデビュー。ボカロPではないが、imaseや藤井風も、テレビではなくSNS、動画配信から生まれたアーティストである。 2020年代に突如として世界に受け入れられるようになった新進気鋭のアーティストたちは、有力事務所に所属してCM・ドラマとセットでデビューしたわけでもなければ、有名プロデューサーのバックアップがあったわけでもない。あくまで個人的な表現としてニコニコ動画やYouTubeで配信を始め、フォロワーとしての視聴者を引き付け、口コミを通じて、アーティストとして磨かれてきた。こうした “セミプロ的” な人々が、後から事務所やレコード会社に見いだされて、「王道」を行くアーティストたち顔負けの実績を上げるようになったのだ。