「黒田路線」継続を明言した植田新総裁 金融緩和修正へそろいつつある条件
大規模な金融緩和策が10年にわたり続く中で、日本銀行の新総裁に就任した植田和男氏には「出口戦略」という課題がのしかかります。新体制での金融政策はどうなるのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】“一枚上手”だった日銀 今後の金融緩和は? 住宅ローンは? 政策修正めぐる5つの「Q」
10年金利の許容幅拡大は6月以降にずれ込む?
植田総裁に対しては、黒田路線を修正するという先入観を抱いた人も多そうですが、これまでのところ現行の金融政策に否定的という印象はありません。 4月10日に開催された植田総裁の就任記者会見の内容を踏まえると、4月28日の金融政策決定会合で、植田総裁が早々に金融緩和策を修正する可能性は低下したと思われます。総裁会見を一言で表現すると「思っていたよりも黒田路線」といった印象です。 記者会見の前半、長短金利操作(以下、イールドカーブコントロール=YCC)の早期見直しが必要かどうかという趣旨の質問に対して、植田総裁は「現状の経済・物価・金融情勢にかんがみると、現行のYCCを継続するということが適当」と歯切れよく回答しました。また同じ質問に対して内田副総裁も「現状においてはこの枠組みの中で緩和を続けていくということが適切」と総裁発言を上書きしました。また「当面の間は現行の大規模緩和路線を維持されるというお考えなんでしょうか」との質問に対しても総裁は「前体制からの大規模緩和を現状では継続する」と簡潔に答えました。 そして黒田体制の10年間をどう評価するかという質問に対しては「ひょっとしたら私が黒田総裁が就任された時期に仮に(中略)、総裁であったら決断できなかったかもしれないような思い切ったことをされた」とした上で、「デフレでない状況を作り出して、私どもにバトンタッチして頂いたということは、非常にありがたいこと」と黒田体制に肯定的な発言に終始。筆者の認識では黒田体制の金融政策に対する批判的な言及は皆無でした。 その後、G7(主要7カ国)財務相・中央銀行総裁会議で訪米中の12日には「物価高への対応が遅れるリスクよりも、時期尚早に金融緩和を終了して2%のインフレ目標が未達になるリスクに日銀はより注意を払うべき」との見解を示しました。筆者は、それまで、4月か6月の金融政策決定会合においてYCCの修正、具体的には10年物国債金利の操作目標の許容幅を現在の0.5%から1.0%に拡大すると見込んでいましたが、これら発言を踏まえ、6月(16日)か7月(28日)もしくはそれ以降になる可能性が高まったと判断しています。