「黒田路線」継続を明言した植田新総裁 金融緩和修正へそろいつつある条件
賃金の伸び次第ではYCC修正に現実味
とはいえ、YCCという強力な金融緩和策の修正を合理的に説明する材料がそろいつつあるのも事実です。連合(4月13日時点)が集計する春闘賃上げ率に目を向けると、ベア相当部分が2.11%と約30年ぶりの高い伸びとなっています。企業規模別(組合員数ベース)にみると、99人以下は+1.9%、100~299人が+2.1%、300~900人が+2.1%、1000人以上が+2.1%と、さほど大きな格差を伴わずに賃上げが実現しています。 一般的に「中小企業に賃上げの余裕はない」と認識されがちですが、一方で中小企業ほど人手不足が深刻という実態もあり、経営者は「背に腹は代えられない」として労働力確保のため、賃上げに踏み切っているとみられます。賃上げの理由はともかく、春闘の結果から判断すると、日本の代表的な賃金指標である毎月勤労統計の所定内給与(基本給に相当)は2023年度に2%かそれ以上の伸びになる可能性が高いと判断されます。 日銀は2%の物価目標を念頭に置き、名目賃金上昇率は3%、つまり実質賃金が1%上昇する姿が理想的であると説明してきました。そこにはなお距離があるものの、目下の伸び率はYCCという強力な金融緩和策を解除するに十分でしょう。植田日銀がこの賃金上昇について「持続性あり」と判断すれば、YCCの修正が俄然現実味を帯びてきます。
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