年間200冊読書可能な時間をSNSに費やす米国で変化──紙の本と書店の回帰
数字で見る米国の最新出版事情
全米出版協会(AAP)のデータによると、米出版業界の2016年最終利益は262億4000万米ドル(27億部数)で、うち印刷書籍の売上が70.6%を占めました。昨年2017年前半の売上は、前年比で3.5%(1億9590万米ドル)上昇し、57億2000万米ドルでした。 特筆すべき伸びを見せたのはダウンロード型オーディオブックで、その率なんと前年比で32%。今年1月のニューヨークタイムズの記事「How Technology Is (and Isn’t) Changing Our Reading Habits」も、スマホなどで聞けるオーディオブックの飛躍に言及しています。聞きながらほかの作業ができる手軽さから、電子書籍に取って代わりつつあるという見方があるというのです。実際に最大の下げ率を見せたのは電子書籍の-4.6%でした。
大型書店のジレンマとは
米国の印刷書籍販売経路はザクッと見ると、ディストリビューターの機能も持つ大手出版社(いわゆるBIG 5: Penguin Random House, Simon & Schuster, Harper Collins, Hachette Book Group, Pearsonを含む)と、基本的にはそれを持たない中小の出版社で異なります。中小の出版社は、独自の販路をもつ大手出版社やディストリビューター会社に手数料を支払って、書籍販売業務を委託する仕組みです。 ディストリビューターは出版社から書籍を預かり、書店チェーンやホールセラー(問屋)、Amazonなどのオンライン書店、図書館などに販売。Barnes & Nobleといった大型書店は、基本的にこうしたディストリビューターから書籍を購入します。たとえばこの経路における2014年の一般書籍販売シェアは全書籍販売の約25%でした。一方、Amazonなどのオンライン書店の販売シェアは40%弱。2016年のデータではオンラインの年間販売総数は8億1400万冊で、書店は6億7200万冊でした。この数字からもAmazonが大型書店の脅威となっていることがはっきりとわかります。 とはいえ、たとえばBarnes & Nobleの業績が芳しくないのは、何もAmazonにしてやられているからだけではないようです。まず電子書籍の専用端末Nookへの投資で大失敗しました。先述のように、今や電子書籍はスマホやタブレット端末で読む時代に突入しています。そして店舗をギフト・おもちゃ・本を売る一般ストア風にするというどっちつかずの戦略で、従来の顧客を失った可能性も指摘されています。店舗を小型化して、食事やワインまで楽しめるカフェを併設するという事業形態の試みも進んでいました。 ところが昨年4月、4年間で4人目となるCEO Demos Parneros氏が就任した際に、今後の経営戦略として「本を売ることに集中する」と発表したことから、「っていうかそもそも書店だし」とネット上の冷笑を誘ってしまいました。しかし、米国の多くの地域では、Barnes & Nobleが街で唯一本を買える場所であることも事実。大型書店ならではの広々としたスペースにはおのずと人が集まります。そういう意味で、まだまだ地元コミュニティの愛すべきブランドであることに変わりはないようです。 ブルックリンの高級住宅街パークスロープ地区にある同店も、児童書籍売り場のある地階の半分はギフトショップのようになってしまっていますが、週末の午後ともなれば、子どもがたくさん本を読んだり、おもちゃをねだったり(!)しています。 無料ラッピングペーパーとセロテープを備えたコーナーが設置されているところなどは、(セルフサービスですが)なかなか気が利いていますし、併設カフェもいつも座るところがないほど混んでいます。ただ、本やギフトを実際買うに至るかどうかはまた別の話なので、地元に愛される空間の提供とビジネスの成功がなかなか直に結びつかないつらさがあるなあと、そのジレンマは伝わってきます。