年間200冊読書可能な時間をSNSに費やす米国で変化──紙の本と書店の回帰
子どもが担う本の未来
ところで、オンラインメディアQuartzの記事によると、人びとが1年間にソーシャルメディアで費やす時間を読書に費やしたとしたらなんと200冊読めるそうで、これが今の子どもたちの未来だとしたら、何とも憂うつな話と言わざるを得ません。 一方で書店の個人経営を指導するグループPaz & Associates代表のDonna Patz Kaufmanさんは、「児童書専門店をオープンさせるには今が最高の時期」だと言います(2017年12月8日付Publisher Weekly)。その理由は、「ミレニアル世代の親たちは、ベイビーシャワーのギフトや赤ちゃん誕生のお祝いに本を指定する」からだそうです。Donnaさんは、彼らが子どもを持ち始めた真に最初のデジタル世代であることを考えたとき、これは素晴らしい兆しだと言います。 そしてもう一つ、ユニークな児童書の販売経路としてScholastic Book Fairというのがあります。Scholastic社は、『ハリーポッター』シリーズや『ハンガーゲーム』シリーズ、『フリズル先生のマジック・スクールバス』シリーズなどを出版している米国の大手児童書・教育出版社です。 そんな同社が過去30年以上にわたって開催してきたブックフェアは、幼稚園から中学校までを会場にした(通常)1週間の児童書販売会。書店を通さず、学校を通じて直接子どもたちにリーチする独自の販売方法で、同社のサイトによると、米国50州ならびにオーストラリア、カナダ、インド、ニュージーランド、フィリピン、プエルトリコ、タイ、英国で年間13万のフェアを開催し、1億冊を35万人の子どもに販売しています。 フェアの運営は通常PTAが担い、フェア後は会場となった学校も売上の一部、あるいは教育関連図書を受け取れるシステムのため、米国内の学校だけでも年間1億7500万米ドルのベネフィットを得ているとのことです。特に公立学校は常に予算不足に悩まされているところが多いので、利益が学校の特別プロジェクトや教室の備品、削られがちな音楽や体育の授業に還元され、生徒たちは好きな本を手にし、出版社も利益をあげるという「三つ巴のWin-Win」です。 前出のSさんの補足によると、フェアで並ぶタイトルはScholastic社のものに限らず、ほか50社以上の出版社の児童書が様々な嗜好と読書能力に応じて選書されているということでした。大手出版社がディストリビューターも兼ねている米国のシステムならではといえます。 日本では、電子書籍および電子雑誌の市場規模が2011年には651億円だったのが16年には2278億円となり、ネットメディアや電子出版事業を手がけるimpress社のリリースによると、2021年には3560億円と右肩上がりの成長が見込まれています。かたやその成長が現在は横ばい・減速状態の米国では、初代デジタル世代のミレニアルたちが親となり、子どもに紙の本を与えたがる傾向もみえてきました。 今後、出版書籍と電子書籍のいずれが市場の主流になるのかはわかりませんが、一般読者の立場からすると、読むかたち自体は大した問題ではありません。これまでもそうだったように、好きなタイトルを好きなスタイルで読めばいいだけのことです。ただ個人的には、1年間にソーシャルメディアへ費やす時間を読書時間に換算した時、「せめて10分の1の20冊」という未来を願わずにはいられません。