ペルム紀末の生物大虐殺の犯人は? 過去の地球温暖化から現在の環境問題を考える
ペルム紀の温室効果ガスの源
さてペルム紀後期の地球規模で起きた温暖化が事実だったと、今回の研究(Penn等2018)が指摘しているように、ここでは仮定しておく。そしてこの温暖化が生物大絶滅の主要な引き金だったとする。 それではこのペルム紀の「温暖化の原因」とは何だったのだろうか? ここでカギとなるのが(冒頭において触れた)「大気中の二酸化炭素」の濃度だ。二酸化炭素やメタンガスは大気中の熱を温室のように閉じ込める役割をする(そのために「温室効果ガス」と呼ばれる)。 大量の二酸化炭素が短期間の間に大気に放出される一大事件。その可能性として真っ先に疑われるのは人類なのか? しかし古生代のペルム紀において、人類はもとより哺乳類さえもまだ出現していなかった。ペルム紀に自動車や工場なども存在していなかった(少なくともペルム紀の温暖化について、我々はシロだ)。 特に地質学者において広く知られている大量の二酸化炭素のソース(源)に「火山の噴火」がある。噴火現場で直接気体を集めその成分を分析すればこの事実はシンプルに確認できる。それではペルム紀の時代に大規模な噴火が起こっていたという仮説をサポートする有力な手がかりとして、そんな都合のいい証拠がどこかになかっただろうか。 そう、先に述べた「シベリア・トラップ」というはっきりした証拠があるのだ。 火山の大噴火→ 大気中の二酸化炭素の蓄積→ 地球の温暖化→ 海水の酸素濃度の低下→ 海生動物の大絶滅。いくつかの断片的な証拠(科学的データ)は、この火山の大噴火がペルム紀の生物大量殺戮の下手人だったと、とりあえず告発している。 さてこの一連のストーリー(推理)に賛同するか否か。この判断は読者の方一人一人の直観と判断にゆだねておきたい。大絶滅の原因は(先に紹介したように)いまだに諸説入り乱れているからだ。この事実は地球上の気候変化の事象が、かなり複雑な要素が入り乱れて成り立っていることによるのだろう。 そして大絶滅の謎解きは誰もが手軽に探偵として、または鍋奉行として参加できる一大物語なのではないかという印象を強く私は受ける。この様々な議論を通して洗練されたものが選択されるという性質は、近代サイエンスの特徴だろう。そしてこの議論に参加する権利(のようなもの)は、現在の環境問題に接する上でもじゅうぶん当てはまるのではないだろうか。 著者略歴:池尻武仁(博士)。名古屋市出身。1997年に渡米後、2010年にミシガン大学で化石研究において博士号取得。現在アラバマ大学自然史博物館研究員&地球科学学部スタッフ。古脊椎動物(特に中生代の爬虫類)や古生代の植物化石にもとづくマクロ進化や太古環境の研究をおもに行う。「生物40億年からのメッセージ」の記事は2016年秋より書き続けている。