ペルム紀末の生物大虐殺の犯人は? 過去の地球温暖化から現在の環境問題を考える
諸説あるペルム紀大絶滅の原因
ペルム紀の大絶滅。その引き金となった直接の原因は何だったのだろうか? 何億年以上も前におこった出来事だ。正確にそのプロセスを一つ一つたどることなど、今となってはタイムマシンでも使わない限り不可能だ。研究者は基本的に化石と岩石に隠されたデータをもとに、絶滅のパターンを必死に読み取る。そして具体的に何がどのようにして起きたのか、その原因を仮説という形で表現する。 余談だが、この思考上の過程は、ミステリー小説における探偵のそれと同じだ。事件現場における死体。様々な証拠をコツコツとかき集める。そして犯人は誰なのか、その動機とは何だったのか推理を働かせる。絶滅研究者は基本的にシャーロック・ホームズやガリレオ探偵と同じようなアプローチでミステリーに挑んでいるといえるかもしれない。 さてこれまで述べたようなペルム紀の大絶滅の詳細なパターンをもとに、その直接の原因に関する仮説がいくつか提案されている。その主なもの、または研究者にとってポピュラーな説をここに紹介してみる。 まず「(巨大)隕石衝突」の証拠がブラジル、オーストラリア、そして南極において知られている。それぞれの直径は40km、250km、そして480kmと推定されている。一番大きいもので本州の3分の1くらいのサイズなので、その被害たるや我々の想像をはるかにこえるものであっただろう。一般に大爆発による衝撃波、それに伴う大火事、そして大気中に散らばる多数の塵や灰による長期間の寒冷化(いわゆる核の冬と同じ現象だ)等の二次災害がシナリオとして考えられる。 先に紹介した海水における「酸素濃度の低下」も、ペルム紀大絶滅の主要原因の一つとして考えられている。酸素濃度が下がれば「呼吸」によって細胞の新陳代謝を行っている生物(主に動物)は、大被害を受けたと考えて間違いないだろう。こうした太古の酸素濃度などは岩石の化学成分の分析によってある程度推定することができる。 「メタンガス」の急激な増加による温暖化が、大絶滅の引き金になったというシナリオも、一部の研究者によって指摘されている。こうした現象は地理的に限られた現象ではなく、地球規模の気候変化をもたらす可能性が高いはずだ。 また当時のシベリア一帯で起きたとされる「火山の大噴火活動」も指摘されている。「シベリア・トラップ」と呼ばれる「(洪水)玄武岩」は、700万平方Kmという非常に広範囲においてみられる(なんとアメリカ合衆国全土の73%近くの表面積にあたるそうだ)。このシベリア・トラップは、ペルム紀後期に噴火に伴い流出した大量の溶岩の産物だ。 陸地の出現、海洋面積の縮小、造山活動の事実も広く知られている。この三つはペルム紀後期(パンゲアはペルム紀初期には完成されていたのではないでしょうか?であれば、この表現は不適当になってしまうかもしれません)から三畳紀にかけて全ての大陸が一つにつながっていた「パンゲア超大陸」の影響があるだろう。南北アメリカ―アフリカ―南極―オーストラリア―グリーンランド大陸が、全て陸地として直接つながっていただけではない。それぞれがぎしぎしと真冬のおしくらまんじゅうのようにひしめき合っていた。そのため陸地の隆起が世界各地で起き、火山の噴火や造山活動がひんぱんだったことが推察される。 こうした諸説にも、まだ解明されていない部分、大きな疑問などがいくつも残されている。そして余談だが上にあげたアイデア以外にも様々な直接の原因とされる仮説がこれまでに提案されている。そして(少しうがった見方をすれば)、これらのいくつかの要素が複数重なり合って大絶滅が起こったとするアイデアも、理論上はじゅうぶん可能だろう。 例えば「温暖化絶滅説」と対をなすような「寒冷化説」も提唱されている。Baresel等(2017)によると温暖化が進行する中で気温が一時的に下がった時期もあったという。この寒冷化がペルム紀大絶滅を引き起こした可能性があったそうだ。急激な気候の変化は(温暖化または寒冷化のどちらであれ)生物にとって好ましい条件ではなかったことだろう。 Bj■(oの上に点2つ)rn Baresel, Hugo Bucher, Borhan Bagherpour, Morgane Brosse, Kuang Guodun, Urs Schaltegger. Timing of global regression and microbial bloom linked with the Permian-Triassic boundary mass extinction: implications for driving mechanisms. Scientific Reports, 2017; 7: 43630 諸説入り乱れているのは「ミステリー小説」としては中々エキサイティングで興味深いと言えるのではないだろうか。シンプルに犯人が分かっているケースでは、名探偵もその腕をふるうことができない。 諸説入り乱れる理由は、まず研究者の手元にあるデータ(事件現場における証拠だ)が、非常に限られているためだろう。絶滅研究者は基本的に非常に限られた情報をもとに推理を働かせるさだめにある。