火星で「太古の生物の痕跡」―今回のNASA発表はなぜ「世紀の大発見」なのか
アメリカ航空宇宙局は7日、火星探査機キュリオシティ(Curiosity Rover)が採取した土壌試料の中から、有機物と大気中のメタンを検出したと発表しました。これは、火星に生物が存在したという仮説を裏付ける「世紀の大発見」の可能性があります。 今回の発見が地球や火星など宇宙の生物起源を探る手がかりになるのか ── 。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、報告します。 ----------
NASA「大発見」の発表
アメリカ航空宇宙局・通称「NASA」が、日本時間で6月8日に火星における画期的な発見をしたと発表した。この件はすでに日本でも大きなニュースとしてとりあげられているのだろうか?(現在私は海外に滞在しているため、日本でのニュースの状況がよくわからない。) なんと火星において「生物の痕跡」を確認したという。 これは人類のアイデンティティーにもかかわる「世紀の大発見」といっても大げさでない。それくらいのレベルのサイエンスにおける業績ではないだろうか。 火星やその他の惑星などにおける「地球外生物」のニュースは、これまでにも何度か耳にしたことがあるかもしれない。しかしそのほとんどが憶測や希望的観測の域を出ていないようだ。あえて批判されることを恐れず口を開くなら、あやふやな、またはかなりいい加減な証拠やデータにもとづいたものもあったようだ。 しかし今回の発見、そしてNASAという世界的に権威のある研究機関が手に入れたデータの質、そしてその発表の仕方を見ると「どうも間違いない」という印象を強く受ける。 まずはNASAのCuriosity RoverのTwitterにおける第一声をご覧になっていただきたい。 ―
冒頭の「我々の近所に生物に関わる物質を見つけた」という件(くだり)は、この大発見を前にしてのなかなかのユーモアが含まれていて微笑んでしまう。しかし次の文に「毎年(火星の)夏に発生する大気中のメタンガスは、岩石のうちに確認された太古の(生物における)炭素物質から生成されたものだ」とある。 「まだ生命そのものを発見したわけではない」(“I haven’t found life on Mars”)ということだが、メタンガスから「炭素物質」が判定できたこと、そしてメタンガスが「夏に発生する」(=季節的に大量放出されるパターン)ことを探り当てただけでも、火星における直接の生命の発見に「等しいほどの」研究成果といっていいはずだ。いずれ近い将来、生物そのものを発見する時が来るかもしれない。 NASAの研究チームも「我々のこの(火星における)一連の研究は正しい軌道に乗っている」と、自信を込めて結んでいる。