過去最高のインバウンドと世界最高峰の食材、なのに地方は置いてけぼり
■ 食で町おこしに成功した山形県鶴岡市 例えば、山形県鶴岡市はガストロノミーツーリズムで町おこしに成功した分かりやすい例だと私は思っている。 ここもUターンして自分の故郷の魅力に気づいた1人のシェフが、イタリアンレストランを開店したことから始まる。 2001年に「アルケッチャーノ」を開いた奥田政行さんがそれで、彼は鶴岡を出て東京で修業していた。 ところが、家庭の事情で戻らなくてはならなくなり、そのときに初めて鶴岡や庄内地方の食材の豊饒さを知り、ここにレストランを開くことを決意した。 地方×イタリアンという二重苦を指摘する人々が多い中、彼は孤軍奮闘で成功し、彼の生き方に共感したシェフや生産者など様々な若者たちが集まるようになった。 そして彼らの努力と鶴岡市の後押しもあり、鶴岡はユネスコ食文化創造都市に認定されるまでになったのである。 Uターンしたデスティネーションレストランのシェフたちはたいていそういうことを話してくれる。 生まれ育った土地には、素晴らしい食材があるにもかかわらず、それが日常のため気づくことができなかった。 しかし、いったん外に出て俯瞰的に自分の地方を眺めることによって、その場所の良さが相対的に分かったのである。 外食産業は過酷である。 ほかの飲食店と同じようなことをしていたら生き残れない。だからシェフたちは、いかにして自分のブランドを高めるか、どうしたら差別化できるかをずっと考え、実行に移す。 一度都会に出て自分の実力を相対的に知ることができた人間が作るデスティネーションレストランだからこそ、唯一無二の自分のブランドを立ち上げ、それが強いインパクトを持つことで、県外やインバウンドを呼び寄せることができるのだ。 しかも、いまはネットという強い情報拡散手段がある。 私は、これができたことによって、デスティネーションレストランの開業にドライブがかかったと思っている。
柏原 光太郎