過去最高のインバウンドと世界最高峰の食材、なのに地方は置いてけぼり
■ 地方都市の「自信」は本物か? 私は以前、ある地方都市から観光をもっと充実したいと相談を受けた。 そこは工業都市として屹立しており、いまさら観光に力を入れる必要がないのではと思ったが、担当者は自信ありげに次のように言った。 「うちは県内で一番酒蔵が多い町なので、それを使って全国の観光客やインバウンドを呼び寄せたいんです」 そうとは知らなかったので、私は不明を恥じ、いったいいくつくらい酒蔵があるのかと聞いたら、彼は胸を張って、「6つです」と答えるのだ。 私は一瞬聞き間違えたかと思った。 そもそも酒蔵は米の産地と同じように日本中にあるから差別化が難しいし、数だって10か所以上酒蔵がある都市はいくつもある。 その都市は、県内では多いかもしれないが、その数を前面に出して観光客を呼び寄せるのは到底無理というものだ。 私は、「え、6つしかないんですか。私は150くらいあるのかと思っていました」とまぜ返してしまったほどだ。 これは、私が提示した2つの考え方のどちらにも当てはまらないし、なかでも後者を吟味しなかったから、起こった例である。 逆もある。 この連載の第1回で書いた、全国に広まっている、その土地でしか味わえない料理を提供する「デスティネーションレストラン」は、Uターンで故郷に戻ってきたシェフが開く場合が多いのだが、彼らに戻ってきた経緯を聞くとほぼ同じ答えが返ってくる。 18歳まで地方で暮らしてきた彼らは、その退屈さがいやで、一流の食材を扱う楽しさにワクワクしながら、都会の調理師学校や飲食店に行った。 ところが、世間で一流といわれている食材より、自分が18歳まで生まれ育った地方で食べてきた食材の方がずっと美味しいことに気づいた。 だから調理技術を身に着けるのに数年かけた後は、自分の生まれ故郷に戻り、都会よりもずっといい食材を使って料理を作ろうと思ったのだ。