過去最高のインバウンドと世界最高峰の食材、なのに地方は置いてけぼり
美食大国ニッポンの源流と進化(3) ■ 日本の地方には行きたいが行かない外国人 これまでの連載で示した数々の統計から分かったことは、コロナ禍からアフターコロナを通じて、世界中の旅行が大好きな人々はずっと「まずは日本に美味しいものを食べに行きたい」と思っており、特定のレストランを訪れることを目的に旅行を計画したり、旅行前に自分たちが行きたいレストランへ予約を入れている観光客も多いという事実だ。 【写真】熟練の包丁さばき!まぐろの解体ショーは外国人観光客にも人気 かつては旅行や観光といえば、絶景やスポーツ、神社仏閣に代表されるその土地の風土を楽しむために出かけるもので、せっかく地方に出かけたのだから、一緒にその土地の美味しいものも味わおうという程度だったのが、いまや主従が逆転。 地方の美味しいレストランに行きたいがために旅行を計画し、せっかく行くのだからその地方の風土も一緒に楽しもうという旅行者が増えているわけである。 この連載の第1回で言及した、10月22日放送のNHK「クローズアップ現代 『美食』が日本を救う!? ガストロノミーツーリズム」に登場した中国系女性のジョスリン・チェンさんも番組中で、「私たちは食のために旅をします。食事は私たちの旅の一部ではなく、目的です」と話していた。 だから地方自治体は豊かな地方の食材に注目してもらい、インバウンドの特に富裕層に来てもらいたいから、こぞって「ガストロノミーツーリズム」に力を入れているのだが、豊かな食材があれば地方にインバウンドが訪れるほど一筋縄ではないことも、数字に現れている。 2024年7月にJTBと日本政策投資銀行が共同調査した「アジア・日米豪訪日外国人の意向調査」によると、首都圏や都市部から離れた地方観光地へ行きたいと答えた外国人は90%以上なのに、多くの地方観光地の訪問経験率は10%を下回った。 これは昨年のインバウンドの訪問都道府県の調査でも似たような傾向が表れている。 1年間で2500万人ものインバウンドが日本を訪れているにもかかわらず、その70%が、東京・京都・大阪・福岡・北海道にしかいっていない。 つまり残りの30%を42県で分け合っているのが実態なのである。 だが、それで落ちこんでも始まらない。私はいつも講演で言うのだが、我々だって初めて米国に旅行に行く場合は、ニューヨークかロサンゼルスあるいはサンフランシスコに行く場合が多いではないか。 最初からネバダ州やオハイオ州に行くのは、親戚がいるとか、よほど興味がある場所があるからだろう。