恋愛や性行為のない結婚をしたはずが…10年目で突然すべてが一変した「夫の一言」
軸となるのは「娘の平穏な生活」
この会話をきっかけに、「娘の平穏な生活」を軸として二人の話がかみ合い始めた。 結果的に、離婚をして夫は実家のある岡山でひとり暮らしを始め、妻や長女につながる人物にはカミングアウトしないことで合意した。最大の焦点であった娘へのカミングアウトは、娘が中学生になるタイミングで再度話し合うことにした。離婚と両親の性的マイノリティの両方を一気に娘に背負わすのは酷だ、という結論に至ったのであった。 その他、養育費や面会交流についても取り決めた。当初、夏希は、ケンが娘に会うことに前向きになれなかった。しかし、自分の性指向を自認して以降、実家の両親と微妙な距離ができたように感じていたこともあり、娘のためにはケンと娘のつながりを大切にしてあげたいという気持ちになったのだ。ケンは、離婚後すぐにパートナーができた様子はなかったが、自分らしく生きる第一歩を踏み出したということで、娘と接する表情も明るかった。その様子を見るにつけ、夏希は離婚や面会交流を改めて前向きに受け入れられる心情になった。 <ADRでの協議のポイント>
性に関する話題こそ第三者を入れて
性に関する話題について第三者を入れて話すことは恥ずかしいと感じるかもしれない。しかし、実際には逆のこともある。第三者がいることで客観視しながら話せたり、司会進行役がいることで話が前に進んだりするのだ。 一方で、もちろん、話しづらい話題であることも間違いない。状況に応じて別席調停を活用したり、話しづらいことを言葉にしてくれたことに感謝をしたり、勇気付けたり、調停人としてはそんな働きかけが必要になる。
根幹は触らない
性自認や性指向はその人の根幹にかかわる問題であり、譲歩や調整が可能な部分ではない。そのため、話し合いの糸口が見つからず、困難に感じることがある。しかし、それぞれの根幹を尊重しつつ、具体的な言動や約束事で解決できることもある。例えば、今回の事例のように、カミングアウトするかどうかは他人が決められることではない。一方で、カミングアウトする範囲や時期については相談が可能である。