恋愛や性行為のない結婚をしたはずが…10年目で突然すべてが一変した「夫の一言」
夫が離婚したくなったワケ
しかし、夫のある一言ですべてが一変した。結婚から10年が経った頃、夫が離婚したいと言い出したのだ。そして、その理由は、自分の性指向を隠して生きていくのではなく、カミングアウトした上で、ゲイとして生きていきたい。ゲイの男性と結ばれたい、というのが理由だ。 それを聞いた夏希は激怒した。ケンがカミングアウトするということは、自分や娘にも大きな影響があるのだ。そんな勝手なことをされては困るということで、夏希は離婚にもカミングアウトにも反対したが、喧嘩の末、ケンは家を出ていってしまった。 ケンは、夏希と今後の話をしたいと思ったが、二人だけで話をすると冷静でいられる自信がなかった。だからといって、裁判所で自分たちの性の問題を話す気にもなれず、ADRという民間の調停制度を利用することにした。
妻への「申し訳ない」気持ち
調停は、オンラインの同席調停で行われた。ふたりの性指向や結婚のいきさつについては、事前の説明書類で提出されていたため、調停人もそうした事情を理解した上で話し合いが開始された。 最初に話したのはケンだった。 「妻には、本当に申し訳ないと思っています。僕たちは自分の性指向をカミングアウトしないことを約束の上で結婚しているし、子どもをもつ責任も理解しているつもりです。でも、どうしても自分の気持ちにウソが付けなくなってしまいました。両親や友人を騙しているような気持ちになったり、自分が自分でないように感じたり……」 これに対し、夏希は、ケンの気持ちも分かるけれど、何のための結婚前の約束だったのかという心情を話し、カミングアウトをするか否かについて、二人の意見は平行線だった。
長女の誕生で気持ちが変化
そのため、調停人が2人の気持ちを掘り下げるような質問を投げかけたところ、ケンからはこんな話が出てきた。 「長女が生まれたころから、心が乱れ始めました。長女を心から愛しています。愛しているからこそ、世間にウソをついたままの自分でいいのか、疑問に思い始めたんです。人と違うところがあっても正々堂々と生きている姿を見せたいと思うと同時に、隠している今の自分への嫌悪感が募りました」 しかし、夏希は長女の話題が出たことで、余計に感情が揺さぶられたようであり、「娘を愛しているというなら、死ぬまでカミングアウトしないでください。あなたはカミングアウトすることで肩の荷が下りるかもしれませんが、その重荷を娘が代わりに背負うことになるのが分かりませんか?」と怒りを露わにした。