加齢で筋肉の減少する「サルコペニア」の予防策を医師が解説。ポイントは朝食とタンパク質。特に高齢者が多くとるべき食材とは
◆ロイシンの含量を高めると筋力が増加する 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」によると、タンパク質摂取量の平均値は、男性で78.8グラム/日、女性では66.4グラム/日となっており、現代の日本人はとくにタンパク不足にはなっていないようです。 でも、標準偏差といわれるデータのばらつきが非常に大きいことから、しっかりとる人と、とらない人の差も大きいことがわかっています。 「年をとったらお肉を食べましょう」というのは、このようなデータに基づいているものと思います。ただし、腎臓病の人は、主治医との相談が必要です。 タンパク質を構成するアミノ酸のなかでも、「ロイシン」といわれるアミノ酸は最も大切です。 ややこしい名前ですが、β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)という物質は、ロイシンの約5パーセントが体内において変換される代謝産物であり、筋肉におけるタンパク質合成を誘導する重要な働きをすると想定されています。 必須アミノ酸のうち、ロイシンの含量を40パーセントまで高めた介入試験の結果でも筋力の増加が認められており、ロイシンの補給の有用性が示されました。 前に述べたように、高齢者はアミノ酸が筋肉組織に届いても筋肉タンパクがつくられにくいのです。 そこで、ロイシンを多く含む食品(たとえば、乳製品、卵、魚、大豆など)をとって効率のよいかたちでアミノ酸を補充すると、より有効にサルコペニアを改善する可能性があることが指摘されています。
◆朝食をとらない人は体重が増え、筋肉量が低下する さらに大切なことが、最近の研究でわかってきました。それは1日のタンパク質摂取について、朝に重点をおくというものです。 「朝食の習慣は健康によい」という報告が多くあります。このメカニズムが、「時間栄養学」という言葉とともに明らかになってきました。時間栄養学とは、「体内時計」を考慮に入れた栄養学のことです。 私たちの体を構成するすべての細胞には体内時計がありますが、じつは体内時計のリズムは24時間より10~30分程度長いのです。 ですから、毎日、自分で24時間にあわせる必要があります。これを、「概日(がいじつ)リズム(サーカディアンリズム)」といいます。 たとえば、朝食をとると、体内時計を24時間にリセットできます。そのほかに、脳(中枢)にある体内時計は、朝の光であわせるといわれているので、朝、起きたら日光を浴びるべきです。 逆に、体内時計を無視した生活を行うと、体は不調になります。 たとえば、朝食を食べない習慣を続けていると、体内時計の異常が起こって、「体重が増え、筋肉量は低下する」という動物を使った研究があります。 つまり、朝食の習慣をつけておくと、体内時計が正常化するため、太りにくい体質をつくる可能性があるわけです。