没後5年。命を無心に描いた不世出の日本画家「堀文子」を知る|堀文子「命といふもの」描きおろし原画『秋の実り』
日本画家・堀文子さんが亡くなって5年になるが、いまだに各地で展覧会が開かれる。なぜ今、「堀文子」に注目が集まるのか。あらためてその魅力を探る。 写真はこちらから→没後5年。命を無心に描いた不世出の日本画家「堀文子」を知る|堀文子「命といふもの」描きおろし原画『秋の実り』額装
坂田明さんが語る堀文子の命への眼差し「どんな小さな生き物にも等しく命が宿っているのです」(堀文子)
ほり・ふみこ 大正7年(1918)、東京生まれ。日本を代表する女流日本画家。女子美術専門学校(現・女子美術大学)卒業。「群れない、慣れない、頼らない」を信念とし、60歳を過ぎてからもアマゾン(ブラジル)、マヤ遺跡(メキシコ)、インカ文明(ペルー)、ヒマラヤ(ネパール)など、常に新しい感動を追い求め続けた。86歳から10年間、小誌に「命といふもの」を連載。最後まで筆を握り続け、平成31年(2019)、永眠。享年100。 ◆解説 坂田 明(さかた あきら)さん(79歳) 昭和20年、広島県生まれ。広島大学水畜産学部水産学科卒業。サックス、クラリネット奏者。ジャズ音楽家として、日本全国のみならず、ヨーロッパ中を駆け巡る。ミジンコ研究家としても知られ、著書に『私説ミジンコ大全』など。 今年の5月から6月にかけて三島(静岡県)や名古屋(愛知県)の美術館で堀文子さんの回顧展が開催され、その様子は全国紙の文化欄でも大きく取り上げられた。2019年に100歳で亡くなってから5年が経つというのに、堀さんの作品を常設展示する画廊・ナカジマアート(東京・銀座)には、「初めて堀文子を知った」と何人も訪ねてきたという。 なぜ今、堀文子なのか。 ミジンコ研究家としても知られる坂田明さんは、堀さんとミジンコを通して10余年の付き合いがあった。堀さんは大磯(神奈川)のアトリエで庭の甕の中にミジンコを飼っていたが、それは坂田さんから贈られたものだ。 「ミジンコを顕微鏡で観察すると命が透けて見える。心臓や血流、便の流れまで、全部、透けて見えちゃう。堀先生がそれを見て、ここに“生と死のドラマが凝縮されている”“一滴の水の中に無限の宇宙が広がっている”といつも驚嘆していました。でもそれを絵に描こうとしたのは、世界広しといえど、堀先生だけだと思います」(坂田さん、以下同)