「鉄腕アトム」も誤訳された…少し小難しい「危険な誤訳」という話をしよう
問題の核心は騙す意図
事情を説明しよう。ディスインフォメーションというが概念について知ってもらえば、私の主張を理解してもらえるはずだ。 2020年1月に刊行された『現代地政学事典』(下の写真)において、当初予定されていなかった「ディスインフォメーション」の項目を収載してもらい、その内容を執筆したのは私である。こんな私からみると、「ディスインフォメーション」を「偽情報」と訳して済ませている日本のマスメディアも総務省も、あるいは「専門家」なる人々も、みな浅学菲才としか言いようがないのだ。 (出所)Amazon.co.jp: 現代地政学事典 : 『現代地政学事典』編集委員会: 本 『現代地政学事典』に書いておいたように、『オックスフォード新英英辞典』によれば、ディスインフォメーションという英語は「1950年代にロシア語のдезинформацияに基づいて形成された」。そもそもロシア語である「デズインフォルマーツィヤ」から生まれた言葉だからこそ、ロシア地域を専攻してきた私は一家言を弄(ろう)したくなるわけだ。 今度は、有名なセルゲイ・オジェゴフの『ロシア語辞典』(1972年)を繙(ひもと)くと、この言葉は、「嘘の情報の外国への導入」と書かれている。注目すべきは「嘘の情報」という表現だ。嘘である以上、ディスインフォメーションには受信者を騙そうという意図があることになる。 ただし、相手をだますために発信する情報は必ずしも偽情報である必要もないし、誤情報である必要もない。あくまで外国をだます目的で外国に発せられる嘘の情報がディスインフォメーションだというのだ。 ついでに、冗談のような本当の話として、ヨシフ・スターリンは「ディスインフォメーションの語源がフランス語のdésinformationであるかのようにみせかけよ」と決定し、ルーマニアの諜報機関の幹部、イオン・パセパはそうした噂をたてるように命じられたという話まである。 こうした基礎知識からわかるように、「悪意や騙す意図の有無」こそ、ディスインフォメーションかどうかの大前提であり、情報の真偽や正誤は二義的な問題でしかない。