「鉄腕アトム」も誤訳された…少し小難しい「危険な誤訳」という話をしよう
専門家の浅知恵
第二に、ろくでもない似非専門家を利用して「ディスインフォメーション=偽情報」を人口に膾炙(かいしゃ)しようという動きが広まっている。その一翼を担っているのが、一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)だ。 SIAは、2020年6月にDisinformation対策フォーラムを設立し、2022年3月に報告書を公表している。同フォーラムは、「法律、経済、情報等を専門とする学識経験者やプラットフォーム事業者を構成員とし、また、総務省をはじめとする関係官庁やメディア関係団体にオブザーバーとして参画」していてもらったものだという。いわば、日本政府がいわゆる「専門家」らを恣意的に選定し、まとめたディスインフォメーションへの理解が示されている。 報告書ではまず、定義について書かれている。ディスインフォメーションを「あらゆる形態における虚偽の、不正確な、または誤解を招くような情報で、設計・表示・宣伝される等を通して、公共に危害が与えられた、又は、与える可能性が高いもの」と定義している。この定義自体はそれほど問題ではない。問題はそのうえで、つぎのように書いている点だ。 「一般的にDisinformationは「偽情報」と訳され、何らかの利益を得ることや騙す意図を持つことを含んだ概念であり、単に誤った情報=Misinformationからは区別されるのが通常である。これに対して、本フォーラムにおいては、誤った情報による社会的・経済的な被害を抑制・防止・回復することに主眼を置くため、誤った情報を発信する者の悪意や騙す意図の有無は問題とせず、Misinformationについても幅広く議論の対象としている」 この文章の不可解さをわかってもらえるだろうか。それは、ディスインフォメーションの一般理解とはあえて違う、「誤った情報を発信する者の悪意や騙す意図の有無は問題とせず」、偽情報や誤情報を俎上(そじょう)にあげるという点にある。 どうやら、日本では、disinformationだけに限定せずに、偽情報と誤情報を取り上げることで、規制対象にしたいようなのだ。その証拠に、報告書『偽・誤情報、ファクトチェック、教育啓発に関する調査』には、「以上より、情報障害の中から malinformation (悪意ある情報)を除いた、disinformation と misinformation を合わせたものを偽・誤情報と本稿では定義する」と書かれている。 このねらいは、本来、ディスインフォメーションという概念がもっている「騙そうとする意図」や「害意の故意」の有無を問わないことにしたうえで、真偽と正誤についてだけ問題視することで、この部分を当局の監視下に置きたいということではないか。