中国産の高級ワイン、その実力は? 濃厚な赤には「ボルドー級」の評価も
連載《なぞときワイン》
世界のワイン市場で中国勢の存在感が高まっている。経済発展に伴い、今や世界で十指に入るワイン消費国となった中国だが、最近は欧米の高級ワインと肩を並べる産地としても頭角を現し始めた。特に、フランスのボルドータイプの濃厚な赤ワインは評価が高く、高級ワイン産地並みの値段が付くワインも少なくない。日本にも本格的に輸入され始めたプレミアム中国ワインの素顔を紹介する。 【写真はこちら】フランスの名門が現地生産 「アオ・ユン」や「ロンダイ」のラベルやボトルはどんな感じ?
■20年前はワイン無縁の地、今や100前後のワイナリー
「私が生まれ育った場所はとても貧しく、20年前は誰もワインなんて飲まなかった。ところが今や、その同じ場所に100前後のワイナリーがひしめいている」。流ちょうな英語で話すのは中国のワイナリー「シルバー・ハイツ」のオーナー兼醸造家、エマ・ガオさんだ。この夏、「一番のお得意様」という日本でのプロモーションのために来日した。 シルバー・ハイツは中国内陸部の寧夏回族自治区にある。寧夏は真夏の気温が35度以上、真冬は氷点下25度以下という極端な大陸性気候。冬場はブドウの木が凍死しないように、すべての木を土で覆う作業が不可欠。非常に労働集約的な作業で、これがワインの値段にも跳ね返る。 ただ、年間降水量が200ミリ前後と少なく日照量が豊富なことから、ブドウがよく熟す。海抜1000メートルを超える標高は昼夜の寒暖差を生み、高級ワインに欠かせない酸味をもたらす。砂漠のような土地で空気が乾いているため、カビなどの病害を受けにくく、ブドウが健康的に育つ。
■仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンも現地生産
こうした高級ワインの生産に適した気候が注目を浴び、ワイナリーの数がこの20年で急増した。2013年には多くのシャンパーニュ・ブランドを手掛けるフランスのLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンが進出し、現地生産に乗り出した。 ガオさん自身は、ワイナリーを開く構想を描いていた父親のすすめでフランスに留学。5年間、ボルドー大学などでワイン造りを学んで帰国し、2007年、父親とシルバー・ハイツを設立した。 現在はカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワール、シャルドネなどから、気候の特徴を生かした果実感のしっかりとしたワインを生産。有機栽培や、月の満ち欠けなどに従いワイン造りをするバイオダイナミック農法を取り入れるなど、ナチュラルワイン的なワイン造りにも力を入れる。 著名ワイン評論家のジャンシス・ロビンソン氏は2010年に北京でシルバー・ハイツを飲んだときの感想を「濃厚な味わいながら口当たりが柔らかく、これまでに飲んだ中国ワインのどれよりも、はるかに素晴らしく感じた」と自身のコラムに綴っている。 ガオさんの来日時の試飲会で特に印象に残ったのは、「シルバー・ハイツ ファミリーリザーブ シャルドネ 2021」(税別参考小売価格8900円)。パイナップルやマンゴーなどトロピカルフルーツを思わせる果実の濃厚な香りと酸味のバランスが秀逸で、非常にクリーミーな口当たり。力強さとフレッシュさを兼ね備えた白ワインだ。