<2017年クルマ業界>現実離れしたパリ協定、総EV化は本当に地球を救う?
今年の夏、フランスが2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止することを発表したことは、世界に波紋を広げました。英国も同様の方針を掲げ、中国もこれに追随する方針を示しています。これらは2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みである「パリ協定」を背景に、電気自動車の普及を目指す動きです。 【写真】自動車の「内燃機関」に未来はあるのか? 2017年クルマ業界展望 しかし、モータージャーナリストの池田直渡氏は、これは本当に現実的な話なのかと疑問を投げかけます。池田氏に寄稿してもらいました。
◇ 2017年の自動車業界を振り返ると、2つの流れがあったように思う。 一つ目は、「パリ協定」をにらんで世界各国がエネルギー政策の長期ビジョンを打ち出したこと。と言えば聞こえが良いが、実質的には欧州各国を筆頭に、中国や米国、インドまでが参加したマウントポジションの奪い合いであり、ハッタリのカマし合いだったと思う。 そもそもの原点であるパリ協定がおかしい。中身を精査してみよう。
パリ協定の「不都合な真実」
パリ協定の第2条第1項(a)では「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前よりも2度高い水準を十分に下回るものに抑える」とし、さらなる努力目標として1.5度を目標に掲げている。 その対応方法について各国独自に検討策定することになっているのは、先進国のみに一律的な努力目標を設定し、地球全体での二酸化炭素(CO2)削減に効果が薄かった京都議定書の方式を改め、国連加盟193か国すべてに適用しようという意図である。しかし、これでは敢えて低い設定を通した国はフリーライドのし放題ではないかという声もある。真面目な日本には不利な方式だ。 新聞報道によれば、マクロン仏大統領は「プランB(代替案)はない。地球Bはないからだ」「目標を下げるような再交渉はしない」と非常に明快なメッセージを発信している。とかくグダグダになりやすいこうした環境規制を一刀両断してみせた。大変わかりやすく、溜飲の下がる向きもいるだろう。 さて、パリ協定では「中期」と「長期」の2種類の削減目標が設定されている。中期のゴールは2030年まで。これはわが国の経産省のレポートを見ても、相当以上に厳しいながら国民全てが耐え難きを耐えればやれないこともない。 問題は2050年の長期目標である。経済産業省の行った試算によれば、2050年までにそれだけの温室効果ガスを削減しようとすれば、2013年の排出量から80%削減というとんでもない数値となる。2013年のわが国のCO2排出量は約14億トンだから、約3.6億トンまで削減せよということになる。最新技術の完全普及どころか、まだ萌芽すらない未来技術に期待せざるを得ないプランである。太陽光だ、風力だ、水素だという補助金漬けでやっと商業化が成立するかどうかの技術を全て採算ベースで実現した上で、まだ見ぬ新技術にその補助金予算をぶち込んで、画期的な技術が生まれて来ないと達成できない。 我が身に置き換えて見ればすぐわかるだろう。仮に政府が、身の回りの家電品を個人負担ゼロで最新の省エネモデルに入れ替えてくれたとして、あなたは来月から電気使用量を1/5に落とせるだろうか? つまりこの目標値だと、節約をせよということではなく、経済活動を止めろと言っているに等しい。 考えてもみて欲しい。産業革命が起こった18世紀中頃の地球人口は8億人に過ぎなかった。現在はほぼ10倍の75億人。これを人口比ではなく総量で均等に規制するということは、つまりわれわれは一人頭、江戸時代のエネルギー消費の1/10で生きろと言われているのである。電車もクルマも飛行機も建設機械も全部止めるしかない。どうしても優先的に回さざるを得ない食料生産と医療へのエネルギー供給を考えれば、家庭の電力など1/10どころかゼロにしなくてはならないだろう。経産省は「2、3の産業を選択して生き残らせ、それ以外を止めるしかない」と試算している。 それに対する救済措置は、気温1.5度度ないしは2度分の猶予だ。では科学的に例えば1.5度分の化石エネルギー消費はこれくらいということが明確に示されているのかと言えば、それも合理性の不確かなシミュレーションでしかない。そもそも温室効果ガスと地球温暖化の関連性自体がまだ仮説の領域なのだから。