<2017年クルマ業界>現実離れしたパリ協定、総EV化は本当に地球を救う?
もう一つ立ちはだかるバッテリー供給問題
メーカーで見たらどうなるかと言えば、言うまでもなくトップはトヨタで、欧州でも日本でも全生産台数の内電動車が約50%。2016年の世界の電動車市場の320万台のうち140万台が実にトヨタ製でシェアは約44%となる。そういう実績のあるトヨタの見通しは次の通りだ。 ・2025年ごろまでに販売する全車種に電動グレードを配備。 ・2030年ごろまでに新車販売の半分を電動車にする。 ・2030年までに10%以上をエンジンレス車にする この計画に立ちふさがるのがバッテリーの供給である。仮に新車の20%~30%がEVになった時、誰がそれを供給できるのか、バッテリーは設備産業であり、生産にクリーンな環境が求められるので、メインテナンスにも莫大な費用が掛かる。その上、莫大な投資をした後で技術フェイズが変わることは十分にありうる。例えばリチウムイオン電池に大投資をして回収しきらない内に全個体電池になったらどうなるのか? そういう現実的な面を全部置き去りにしてEVと騒いでも意味がない。電力総量とバッテリーが足りない。それを解決しないとEVは前には進めないのだ。 高性能なバッテリーは単体で作れない。クルマがどう電気を使うのか、つまり電池に対する要求特性を明らかにすると共に、バッテリー側の制約条件は何なのかを定義していかないとバッテリーの性能は上がって行かない。だからトヨタとマツダ、デンソーが立ち上げたEV開発会社(EV.C.A.スピリット)では、そのバッテリーとクルマ相互の要素整理を行おうとしている。 2017年を振り返った時、理想と現実をすり合わせ、未来に向けた新技術が具体的にローンチした年ということになるだろう。絵空事を声高に叫んでも何も解決しない。地に足を付けた地道な努力によってのみ未来は拓かれるのである。
------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある