【イメージディレクター ORIHARA】「Ado」のビジュアル、「てにをは」のMVを「ファッション」で読み解く
ファッションで見るORIHARAの造形
ー『ザムザ』はボカロPの「てにをは」さんが、初音ミクを使ってゲーム「プロジェクトセカイ」のために書き下ろした楽曲ですね。
私が担当したのは「てにをは」さんのYouTubeチャンネルで配信されたバージョンの『ザムザ』のMVで、ゲームの公式から配信されているオリジナルのMVとは異なる世界を創ろうと思いました。 だから、あえてゲームの世界観や「25時、ナイトコードで。」を思わせるようには描いていません。この曲が誰かほかの人に向けて書かれた世界線があるとしたら……と考えて、この女の子を描きました。 ーアシンメトリーなヘアスタイルと衣装が印象的なキャラクターです。どのように発想しましたか。 「てにをは」さんからは「自由に制作してください」と言っていただいたので、特徴的な歌詞を主なインスピレーション源にしています。 『ザムザ』はフランツ・カフカの小説『変身』を下敷きにしているとご本人から伺って、まず小説について調べました。 そこから解釈を広げ、原作に登場する「家族」という題材に自分なりの要素を足し、生まれた環境と自身のズレを感じながらも、自己を肯定する希望が入っている物語をMVの中で描きました。 物語の舞台は“マザー”という大きなシステムが支配している子どもたちの世界。子どもの身の回りは大人が整えていて、髪型も綺麗に手入れしてくれる。 でも主人公の女の子だけは周りの子と違い、髪も衣服も崩れています。美しい「蝶」ではなく「虫」側の人間で、名前もつけてもらっていない。その子が曲の最後に自分の美しさを見つけるというストーリーを、複数枚の絵で表現しています。 アシンメトリーな髪型はサソリをイメージして描きました。でも虎の尾にも見えるとコメントしていただいた方がいて、なるほどと思いましたね。 ー同じく「てにをは」さんの『修羅薔薇』はどうですか。
『修羅薔薇』は一枚絵での構成だったので、ストーリーの表現というよりは写真を撮るという感覚で制作しました。 衣装は「鬼ヶ式 うら」さんのイメージとかけ離れないようにしながらも、MVのキャラクターとして描いています。私にとって『修羅薔薇』は蜷川実花さんの映画『Diner ダイナー』のような、過激で鮮やかな気性の激しさを感じる曲でした。 戦闘を終えたあとの動物的でハイな表情。縛られた女性の姿に見た人が「なんだろう?」と立ち止まるような絵を目指しました。