【イメージディレクター ORIHARA】「Ado」のビジュアル、「てにをは」のMVを「ファッション」で読み解く
アーティストの姿を「探偵のように探り当てる」
ービジュアルイメージの作成はどのようなところからインスピレーションを得て、どのようなステップで進んでいくのでしょうか? アーティストの方を担当する場合は「声」から解釈を広げていく場合が多いです。感情の乗せ方など、声にはその人の考え方が出ますから。 どうしてこんな歌い方をするのか、このタイミングでこの曲を歌う理由は何か。そこから、その人の経験や気持ちを想像しながらビジュアルを練っていきます。 ーアーティスト本人へのインタビューも行いますか。 ほとんどしません。本人にインタビューするとどうしても「私にどう見せたいか」というフィルターがかかってしまうんですよね。外向きの姿より「無意識」を拾い集めたい。そうしないと本当のものはできないと思うんです。 もっとも役に立つのはSNSの投稿などからパーソナリティを調べていくことです。好きな歌手、食べ物、服のブランド、投稿した写真。探偵のようにくまなく情報を集める。描く作業よりも調査に時間をかけています。 アーティスト本人と話す機会などがあると「どうしてそんな細かいことまで知っているの?」と驚かれることもありますね。 ービジュアルの肌質や髪質・髪色やメイク、衣装などはどのようにイメージを詰めていくのでしょうか。代表例としてAdoさんのヘアデザインについて聞かせてください。 本人の自己紹介で、好きな色は「ターコイズブルー」だと発言していたところからスタートしました。ブルーとグリーンが混ざったような色。肌の白さとのバランスをとりながら色を調整し、インナーカラーにターコイズブルーが入ったヘアスタイルになりました。 実は、あの髪はビジュアルによって微妙に色が違うんです。「黒い髪をターコイズブルーに染めている」から。もともとあの髪色ということではなくて、時間が経つと色抜けしたり染めなおしたりしている。 だからリリースやLIVEのときは染めたばかりの綺麗でくっきりした色で、逆にプライベートを思わせるカットのときは少し色が抜けてグリーンが強くなっているビジュアルもあります。 本人が手先が不器用だと公言しているところから、前髪の分かれ目も絵によって変わっています。風に吹かれて乱れている様子もよく描きます。 髪の色もかたちも固定されているのは私の中で「生きている人間」という感じがしないんです。 ー教えていただいてはじめて気づくような、細かいこだわりです。 でもこのディテールが大切なんです。たとえ何億人が気づかなかったとしても、描かれた本人が「私のことを理解してくれている」と思ってくれるのであれば、充分必要な仕事だと考えています。