元日本代表FW佐藤寿人が引退発表…ミスターフェアプレーが森保監督に反抗した夜
一夜明けて森保監督と佐藤が話し合いの場をもち、チームのためを思った末の言動だと理解された。雨降って地固まる、と言うべきか。懲罰として科された2試合のベンチ外を含めて、先発復帰まで7試合を要した日々で佐藤が抱くフォア・ザ・チームの精神はさらに強くなった。 圧倒的な強さでセカンドステージの頂点に立ち、ガンバとのチャンピオンシプ決勝も制して3度目の頂点に立った2015シーズン。リーグ戦で全34試合に先発した佐藤のフル出場は1試合にとどまり、判で押されたように、3年目のFW浅野拓磨(現パルチザン)と後半途中に交代した。 2015シーズンの平均プレー時間は約64分。限られた時間で献身的な役割も厭わず、代わりにピッチに入る浅野を鼓舞するように笑顔でハイタッチを交わし続けた。そのなかで積み上げた12ゴールに、手にしたリーグ優勝のタイトルに、佐藤はそれまでとは異なる手応えをつかんでいた。 「僕をもっと早くベンチに下げようと監督が思った試合が、もしかするとあったかもしれない。自分がストライカーとして求めてきたのは得点なので、その折り合いをつける難しさはありましたけど、それでもいまはサッカーが楽しい。得点以外のプレーの質をもっと、もっと上げていきたい」 ただ、最後の12ゴール目だけはがむしゃらに奪いにいった。愛犬ミニチュアダックスフントの一匹を「ゴン」と命名するなど、憧れ続けた中山がもつ当時のJ1歴代最多ゴール157にあと1得点と迫りながら7試合も足踏みが続き、ついにセカンドステージ最終節を迎えていたからだ。 「今日でリーグ戦が終わってしまうことに、大きなプレッシャーを感じていました。今日ゴールを決めないと、多くのファン・サポーターの方々の希望が来年まで流れてしまうので」 こう語っていた佐藤は、湘南ベルマーレとの最終節で長男の玲央人君、次男の里吏人君の手を握りながら入場している。 さかのぼればメインスタンド下でスタンバイしているときに、愛息たちに右足のスパイクを触らせた上で「今日決められるように念じてくれ」と話しかけていた。 利き足とは逆の右足のスパイクの目立たない部分には愛息たちの名前の一部が、英語で『REO』および『RIRI』として刺繍されていた。果たして、家族が見守るなかで前半42分に待ち焦がれたゴールを頭で決めた佐藤は、セカンドステージ優勝も果たした試合後に無邪気な笑顔を浮かべている。 「右足でゴールを決められたら、よかったんですけどね」