元日本代表FW佐藤寿人が引退発表…ミスターフェアプレーが森保監督に反抗した夜
もっとも、佐藤自身が「精神的な部分では不安定な状態だった」と振り返る、キャリアがまだ浅かったころは少なくない数のイエローカードをもらっている。転機が訪れたのは同じく広島時代の2006年10月22日。J1残留を争う佳境でセレッソに2-4で敗れた一戦だった。 前節に遅延行為でイエローカードをもらい、最初で最後となる累積警告による出場停止処分を受けた佐藤は、広島市内の自宅でテレビ観戦しながら自責の念に駆られていた。 「最終ラインや中盤の選手たちがピンチでチームを救うためにファウルを犯して、イエローカードをもらうケースはある。でも、自分の場合は主審への異議、遅延行為、反スポーツ的行為のすべてが不必要なんです。ファウルの次元が違うんです。ストライカーはイエローカードをもらうようなファウルをしてはいけないと、出場停止処分を受けてはいけないとあのときに強く思いました」 その後の佐藤は2007、2012、2013シーズンに警告と退場がなく、なおかつ最も多くの試合に出場した選手が対象となるフェアプレー個人賞に輝く。3度の受賞は歴代最多であり、佐藤自身も「開幕前から意識する」と矜恃を抱き続けたタイトルへ、こんな言葉をつけ加えたことがある。 「何よりもプロとして、目の前の試合に勝つことにこだわらないといけない。その意味ではフェアプレー個人賞が欲しいがゆえに、相手との激しい接触を避けるのはもってのほかだと思っています」 ポリシーとして「熱くなっても、決して感情的にはならない」を掲げ、自らを厳しく律してきた佐藤が思わず禁を破ったのは、2014年8月2日の鹿島アントラーズ戦だった。1点をリードされて迎えたハーフタイムで、現在は日本代表を率いる森保一監督からルーキーのFW皆川佑介(現横浜FC)との交代を告げられた直後に、佐藤の怒声が敵地のロッカールームに響き渡った。 「何でオレなんですか」 3連覇を目指しながら上向かないチーム状態への焦りと、鹿島戦の前半をシュート0本で終えていた自分自身への怒りが渦巻いていたのだろう。指揮官への造反と受け止められかねないと頭では理解していても、キャプテンの責任感が、ストライカーのプライドが佐藤を高ぶらせた。